【現場の悲鳴】従業員全員の「性犯罪歴」を1年以内に確認できますか? 日本版DBS、最大の難所「犯歴確認」の実務

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「認定」を取るための“高すぎる”ハードル

「よし、うちの学習塾も日本版DBSの認定を取って、保護者に安心してもらおう!」

前回の記事を読んで、そう決意された経営者の方も多いと思います。
その経営判断は間違いなく正解です。

しかし、いざ「認定を取りたい」と手を挙げようとすると、目の前に立ちはだかる高いハードルに気づくことになります。 それが、「犯罪事実確認(性犯罪歴のチェック)」という実務の壁です。

単に「警察に電話して聞けばいい」という話ではありません。
国(こども家庭庁)を経由し、法務省のデータベースにアクセスし、厳格な手続きを経て初めて「シロかクロか」がわかる。この手続きを、これから雇う人だけでなく、今働いているスタッフ全員に対して行わなければならないのです。

今回は、認定取得のために避けては通れない、この「超・複雑な確認フロー」と、多くの事業者が躓くであろう「1年以内の壁」について解説します。

これを読めば、なぜ私が「今すぐ準備を始めないと間に合わない」と強調するのか、その理由がお分かりいただけると思います。

目次

認定を受けるためクリアすべき「6つの基準」

まず全体像を整理しましょう。
内閣総理大臣から「この事業者は安全です」という認定をもらうためには、以下の6つの基準をクリアする必要があります。

  1. 犯罪事実確認の体制:犯歴をチェックする仕組みがあるか。
  2. 早期把握等の措置:もし被害が起きたらすぐに気づけるか。
  3. 相談・支援:被害者の相談窓口はあるか。
  4. 研修:スタッフへの研修を行っているか。
  5. 規程の作成:「もし犯歴が見つかったらどうするか」をルール化しているか。
  6. 情報管理:犯歴という究極の個人情報を漏洩させない体制があるか。

どれも重要ですが、圧倒的に手間がかかり、かつミスが許されないのが「1. 犯罪事実確認の体制」です。

複雑すぎる!「犯歴確認」のリアルな手順

「犯歴確認」と一口に言いますが、実際にはどのような手順で進むのでしょうか?
あなたが学習塾の経営者で、新しいアルバイト講師(Aさん)を採用する場面を想像してください。

【これまでの採用】

面接して、履歴書を見て、特段問題がなければ「よし、採用!」(終了)

【日本版DBS導入後の採用】

  1. 説明と同意:あなたはAさんに対して「法律に基づき、性犯罪歴の確認をします」と説明し、同意を得ます。
  2. アカウント作成:こども家庭庁の専用システムにアクセスし、事業者のIDでログインします。
  3. 申請:Aさんの氏名・生年月日などの情報を入力し、確認を申請します。
  4. 本人通知:システムからAさんのスマホ等に通知が行きます。「あなたの犯歴照会が申請されました。承認しますか?」
  5. 本人の手続き:Aさんは、マイナンバーカード等を使って本人確認を行い、システム上で承認ボタンを押します。(※さらに、戸籍謄本などの書類を郵送しなければならないケースもあります)
  6. 国による照会:こども家庭庁が法務省にデータを飛ばし、犯歴データベースと突き合わせます。
  7. 結果通知:あなたの元に結果が届きます。「特定性犯罪前科なし(シロ)」または「あり(クロ)」。

……いかがでしょうか?
これまでの採用フローとは比べ物にならないほど工数が増えます。
特に厄介なのは、「本人(Aさん)のアクションが必要」という点です。

Aさんが「面倒くさいな」と思って承認ボタンを押さなかったり、戸籍の提出が遅れたりすれば、いつまで経っても結果が出ません。その間、Aさんを子供と接する業務に就かせることはできません。
つまり、「採用即戦力」という流れができなくなるのです。

最大の難所:「今いるスタッフ全員」を1年以内にチェックせよ

新規採用の手間も大変ですが、さらに大変なのが「現職者(いま働いている人)」の確認です。

法律では、認定を受けた日から起算して「1年以内」に、現職者全員の確認を完了させなければならないと定めています。

あなたの教室に、講師やコーチ、スタッフは何人いますか?
5人? 20人? それとも全拠点で100人?

その全員に対して説明会を開き、同意書を取り、システムへの入力を促し、進捗を管理し、結果を受け取る。
これを通常の業務と並行して、1年以内にやりきらなければなりません。

「1年もあるなら大丈夫でしょ?」本当にそうでしょうか。

  • 「なんで今さら?」という反発:長年勤めているベテラン講師ほど、「私を疑うのか!」と不快感を示す可能性があります。
  • 「過去の軽微な罪」への不安:性犯罪でなくとも、若気の至りで前科がある人は、「何かバレるんじゃないか」と怯えて手続きを拒否するかもしれません。
  • 退職リスク:「そんな面倒なことをされるなら、他の(認定を取っていない)塾に移ります」と言われるリスク。

これらを防ぐためには、単に事務的に処理するのではなく、「なぜこれが必要なのか」を丁寧に説明し、スタッフの不安を取り除くコミュニケーション(研修)が不可欠なのです。

「急に辞められた!」その時どうする? ~いとま特例の罠~

もう一つ、現場で必ず起こる問題があります。
「急に講師が辞めてしまった! 明日の授業に穴が空く!」というケースです。

本来なら、新しい講師を採用しても、DBSの確認結果(シロ)が出るまでは授業に出せません。結果が出るまでには、早くても数週間はかかるでしょう。 「そんなに待てない! 授業が回らない!」

そんな時のために、法律には「いとま特例(緊急避難的な措置)」が用意されています。
やむを得ない事情がある場合に限り、「確認結果が出る前でも、とりあえず働かせてもいいよ」という特例です。

「なんだ、それなら安心だ」 ……いいえ、安心ではありません。
この特例を使うための条件は、そんなに甘いものではありません。

特例を使って働かせる間、その講師は「性犯罪歴があるかもしれない人」として扱わなければなりません。
具体的には、以下のような厳格な措置が求められます。

  • 決して子供と一対一にさせない(常に誰かが監視する)
  • パーテーションなどで仕切られた密室に入らせない

小さな教室で、常に監視役をつけることができますか?
ワンオペのクラスであれば、事実上不可能です。
つまり、「いとま特例」は、あくまで大組織向けの救済措置であり、小規模な事業者にとっては「使えない絵に描いた餅」になる可能性が高いのです。

だからこそ、ギリギリの人数で回している事業者ほど、余裕を持った採用計画と、迅速なDBS確認フローの構築が必要不可欠なのです。

事務コストは「1人3万円」!? 隠れたコストを見積もる

最後に、お金の話をしましょう。 DBSの確認には、国に支払う手数料がかかります。
現時点での想定では、1回あたり3万円程度と言われています。

「なんだ、安いじゃん」 ここでもまた、数字のマジックがあります。

本当にかかるコストは、その手数料だけではありません。

「あなたの時間単価」です。

  • 制度を理解するために資料を読む時間
  • スタッフへの説明資料を作る時間
  • 一人ひとりの進捗を追いかける時間
  • PC操作が苦手なスタッフの横について教える時間

これらをすべて社長であるあなたがやった場合、時給換算でいくらになるでしょうか?
仮に、スタッフ1人の確認を完了させるまでに管理者側の工数がトータルで5〜10時間かかるとして、あなたの時給が3,000円だとしても、1人あたり3万円の見えないコストがかかる計算です。

スタッフが10人いれば30万円。これを「タダ」だと思ってはいけません。
認定を取るということは、このコストをかけてでも「信頼」を取りに行くという、重い経営判断なのです。

まとめ:自力でやるか、プロに任せるか

今回は、認定取得の実務的なハードルについて解説しました。

今日のポイント

  1. 犯歴確認は「事業者の申請」+「本人の承認」の2ステップが必要
  2. 今いるスタッフ全員を「1年以内」に確認するのは、想像以上に泥臭い作業
  3. 「急な欠員」が出ても、すぐに補充できないリスクがある(いとま特例の限界)
  4. 見えない事務コスト(人件費)は膨大になる

「話を聞いているだけで頭が痛くなってきた……」
そう思われた方もいるかもしれません。しかし、これが現実です。

この膨大な事務作業を、本業の授業や教室運営と並行して、ミスなくこなす自信はありますか?
もし「NO」であれば、「事務処理のアウトソーシング」を検討すべきではないでしょうか。

認定申請のプロである我々行政書士は、これらの面倒な手続きを代行し、あなたの時間を守ります。
次回は「【最重要】今すぐ着手すべき組織の意思決定(人事・労務編)」として、 「もし犯歴があるスタッフが見つかったら、クビにできるのか?」という、最もデリケートで怖い問題に触れていきます。

制度の解説だけでなく、私がなぜここまで日本版DBSに情熱を注いでいるのか、その「原点」と「決意」を綴りました。ぜひ一度お読みいただければ幸いです。

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