「自宅でピアノ教室を開いているけれど、日本版DBSの認定は取れるの?」
「講師は私一人だけど、アルバイトの学生が数名います。うちは対象?」
2026年12月の施行に向け、小規模な教室を運営されている先生方は、このような疑問を抱いていることでしょう。「認定を取りたい」と手を挙げても、全ての事業者が申請できるわけではありません。逆に、「自分は小さいから関係ない」と思っていても、実は対象内というケースもあります。
今回は、行政書士の視点から、学習塾やスポーツクラブ等の「民間教育事業」が認定を受けるための具体的な要件、特に「人数要件(3人ルール)」について、最新の政府資料に基づき徹底解説します。
※本記事は2025年11月21日時点の中間とりまとめ案等の情報に基づいています。最終的には、今後出される政令において「指導を行う者の人数」が定められます。
いわゆる「一人親方」は対象外。「スタッフ3人」が分かれ道
結論から申し上げます。
日本版DBSの認定を受けることができるのは、原則として「指導者(講師・コーチ等)が3人以上いる事業者」に限られます。
つまり、
- × 対象外: 先生が一人だけで運営している個人のピアノ教室、英会話教室など
- 〇 対象: 代表者のほかに、講師やアシスタントが2人以上いる教室(合計3人)
なぜこのような線引きがされているのでしょうか?
詳しく見ていきましょう。
「民間教育事業」として認定されるための5つの要件
法律(こども性暴力防止法第2条第5項第3号)および政府の方針では、学習塾やスポーツクラブなどが「民間教育事業」として認定を受けるために、以下の5つの要件をすべて満たす必要があるとしています 。
- 教育要件: 児童等に対して技芸(スポーツ、音楽等)や知識の教授を行う事業であること
- 期間要件: 標準的な修業期間が6か月以上であること(単発イベント等は不可)
- 対面要件: 対面で指導を行うこと(完全オンラインは対象外)
- 場所要件: 事業者が用意した場所で行うこと(生徒の自宅への訪問は対象外)
- 人数要件: 指導を行う者の人数が政令で定める人数(3人)以上であること
この中で、小規模事業者が最も注目すべきなのが「5. 人数要件」です。
最大の落とし穴! 「3人」には誰が含まれる?
「うちは正社員は私だけだから、1人カウントでしょ?」
そう思われた方は注意してください。
こども家庭庁の指針案によると、雇用形態を問うていません。 正社員だけでなく、パート・アルバイト、派遣社員、さらにはボランティアであっても、実態として「子供への指導」をしている場合は人数にカウントされます 。

具体的な判定シミュレーション
- ケースA:自宅ピアノ教室(講師は自分のみ)
- 人数:1人
- 判定:対象外(認定は受けられません)
- ケースB:個人経営の学習塾(代表1人 + 学生バイト講師2人)
- 人数:3人
- 判定:対象(認定申請可)
- ケースC:サッカーチーム(代表コーチ1人 + ボランティアの保護者コーチ2人)
- 人数:3人
- 判定:対象(認定申請可)
- ケースD:英会話スクール(代表講師1人 + 事務スタッフ2人)
- 人数:1人(事務スタッフは指導を行わないためカウントしません)
- 判定:対象外


このように、「誰が指導に関わっているか」という実態で判断されます。「バイトだから関係ない」という理屈は通りません。むしろ、人の出入りが激しいアルバイトやボランティアを多数活用している事業者こそ、制度の対象となるのです。
なぜ「3人以上」なのか? ~法の趣旨を読み解く~
「1人でやっている教室だって、安全性をアピールしたいのに不公平だ!」という声も聞こえてきそうです。
しかし、国が「3人以上」と定めたのには、明確な理由があります。
それは、「組織的な監視体制(相互牽制)が機能するかどうか」です。
日本版DBSの認定事業者には単に犯歴を確認するだけでなく、「安全確保措置」と呼ばれる義務が課せられます 。これには以下のような対応が含まれます。
- 複数の目による見守り(密室を作らない)
- 相談窓口の設置
- 万が一の際の調査・対応チームの結成
たった1人で運営している教室では、自分自身を監視することは物理的に不可能ですし、自分に対する相談窓口を自分で設置することもできません。「法に基づく厳格な義務を履行できる最低限の組織体制」として、「3人」というラインが引かれているのです 。
「対象外」の事業者が生き残るための戦略
では、認定を受けられない「個人教室」や「小規模スクール」は、今後どう戦っていけばよいのでしょうか?
認定マークがないことで、保護者から選ばれなくなるリスクはないのでしょうか?
行政書士として、私は以下の2つの戦略を提案します。
「認定」以外の方法で安全性を証明する(透明性の確保)
認定マークは貼れませんが、安全対策が不要なわけではありません。
- 「レッスン中は常に保護者が参観可能にする」
- 「ドアを開放し、死角を作らないレイアウトにする」
- 「SNS等での受講生との私的なやり取りを禁止する」
といった独自の安全ルールを策定し、ホームページ等で積極的に発信しましょう。
「制度の対象外ですが、安全意識は認定事業者と同じです」と伝える姿勢が信頼を生みます。
「小規模ならでは」の強みを磨く
日本版DBSは「組織的な管理」を前提とした制度です。逆に言えば、個人教室は「組織的な管理が不要なほど、先生と生徒(保護者)の距離が近く、信頼関係が濃い」という強みがあります。「顔の見える関係」を最大限に活かし、大手にはできないきめ細やかな指導とコミュニケーションで差別化を図ることが、これまで以上に重要になります。
まとめ:まずは自社の「人数」と「実態」の確認を
- 指導者が「3人以上(バイト・ボランティア含む)」なら、認定申請が可能でしょう。
- 「2人以下」なら対象外。別の方法で信頼獲得を目指す。
ご自身の事業がどちらに当てはまるか、判断に迷う場合は専門家にご相談ください。
特に、「今後スタッフを増やす予定がある」「事務スタッフが指導の補助もしているが、カウントされるか?」といったグレーゾーンの判断には、今後出されるガイドラインを参照する必要があります。
制度開始まであと1年。今のうちから「選ばれる教室」になるための準備を始めましょう。
【参考資料】
- 学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律(令和6年法律第69号)
- こども家庭庁「こども性暴力防止法に関する関係府省庁連絡会議 中間とりまとめ案」(令和7年9月12日)
