日本版DBSの導入に伴い、学習塾やスポーツ教室の採用現場は大きく変わります。 これまでの「履歴書を見て、面接して、良さそうなら採用」というフローだけでは、経営リスクをカバーできなくなるからです。
経営者の皆様が最も恐れているのは、「採用した後に性犯罪歴が発覚し、対応に追われること」だと思います。 このトラブルを未然に防ぐ唯一の方法は、「入り口(採用時)」で法的に有効な書類を交わしておくことです。
今回は、行政書士(権利義務書類作成の専門家)の視点から、日本版DBS認定事業者が採用フローに組み込むべき「誓約書」と「同意書」の重要性と、その作成ポイントについて解説します。
「口頭確認」は無意味!すべてを書面にする理由
採用面接で「過去に性犯罪歴はありませんか?」と口頭で聞き、「ありません」と言われたので採用した。 しかし後日、日本版DBSの照会で「あり(クロ)」の通知が届いた…。
この時、もし「性犯罪歴がないこと」を条件とした雇用契約書や、本人の署名入りの誓約書がなければ、内定取消や解雇を行う際のハードルが極めて高くなります。「そんな重要な条件だとは聞いていない」「聞かれなかったから答えなかっただけだ」と言い逃れされるリスクがあるからです。
日本版DBS時代において、口約束はリスクそのものです。
すべての確認事項を「書面(証拠)」に残すことが、教室を守る第一歩です。
必須書類①:犯歴照会への「同意書」
日本版DBSのシステムで犯歴確認を行うには、必ず「本人の同意」が必要です。
これは、既存スタッフ・新規採用者を問わず必須となります。
行政書士が作成する同意書には、単に「照会に同意します」という一文だけでなく、以下の項目を盛り込むことを推奨しています。
- 利用目的の明示: 「児童等対象業務への配置適性を判断するためにのみ使用する」こと。
- 結果の通知先: 確認結果が組織内の「誰(管理者)」に通知されるか。
- 不利益取扱いの説明: 同意しない場合、子供と接する業務には就かせられないこと。
この同意書を一枚挟むことで、スタッフに対して「適正な手続きで情報を扱いますよ」という安心感を与え、スムーズな協力を引き出すことができます。
必須書類②:虚偽申告を防ぐ「誓約書」
さらに重要なのが、採用内定時や入社時に提出させる「誓約書」です。
ここには、以下の内容を明確に記載し、署名・捺印をもらいます。
- 自己申告: 「現在、特定性犯罪歴がないことを誓約します」
- 虚偽時のペナルティ: 「万が一、申告に虚偽があった場合、内定取消や懲戒処分、即時の配置転換に従います」
この誓約書があることで、万が一犯歴が隠されていた場合でも、それは「重要な経歴の詐称(契約違反)」となり、事業者が適正な対応(契約解除など)をとるための強力な根拠となります。これは、行政書士が作成する「権利義務に関する書類」の中でも、特にリスクヘッジ効果が高いものです。
拒否されたらどうする?採用フローの再設計
「同意書の提出を拒否されたらどうすればいいですか?」
この質問もよく頂きます。
答えは明確です。
「児童等対象業務(子供と接する仕事)への採用を見送る」あるいは「配置しない」という判断になります。この運用を現場で徹底するためには、募集要項や求人票にあらかじめ以下の文言を入れておく必要があります。
「当教室は日本版DBS認定事業者です。採用にあたり、性犯罪歴確認への同意と誓約書の提出を必須条件とします」
この一文を入れるだけで、やましいことがある人物の応募を自然と抑制する(スクリーニング)効果も期待できます。
行政書士が作成する「オーダーメイド書式」の強み
ネット上に転がっている無料のテンプレートをそのまま使うのは危険です。なぜなら、貴社の「業務形態(直営かFCか)」「雇用形態(正社員かバイトか)」によって、記載すべき条項が異なるからです。
当事務所では、貴社の運用実態をヒアリングした上で、以下の書類セットを作成します。
- 日本版DBS対応・採用時誓約書
- 犯歴照会に関する同意書
- 募集要項への記載文言案
また、これらの書類が労働基準法などに抵触しないか、提携する社会保険労務士によるチェックを経て納品することも可能です。
まとめ:書類一枚が組織を守る盾になる
日本版DBSの導入は、採用活動のあり方を根本から変えます。「いい人そうだから」という感覚的な採用から、「リスクのない人であると書類で確認できたから」という証拠に基づく採用への転換です。
今回のポイント
- 口頭確認ではなく、必ず「書面」で残す。
- 「同意書」で手続きの正当性を担保する。
- 「誓約書」で万が一の時の法的根拠を作る。
「今の誓約書で大丈夫かな?」「どんな文言を入れればいい?」と迷われた際は、ぜひ書類作成のプロである行政書士にご相談ください。 貴社の採用活動を、法的リスクから守るための「盾」をご用意します。
関連記事:日本版DBS導入を検討するにあたって
今回の記事では『トラブルを防ぐ「入り口対策」』について解説しましたが、制度導入には事前の準備が不可欠です。以下の記事もあわせてご確認いただき、トラブルのない体制作りを進めましょう。
- 実務対応を知る

- 対象者を確認する

- 基本をおさらいする

