「夏期講習の間だけ来てくれる学生バイト、全員の犯歴確認なんて間に合わないよ!」
「地域のボランティアさんに、戸籍を出してなんて頼みにくい……」
2026年12月の日本版DBS施行に向け、学習塾やスポーツクラブ、放課後児童クラブなどの現場からは、このような悲鳴にも似た声が聞こえてきます。
雇用形態に関わらず「子供と接する業務」なら原則として対象になることについては、以前にお伝えしました。 しかし、経営者様が知りたいのは「対象かどうかの理屈」よりも、「入れ替わりの激しい非正規スタッフを、実務上どうやって適法に回していくか」という現実的な解決策ではないでしょうか。
今回は、行政書士の視点から、短期アルバイト・ボランティア・派遣社員を受け入れる際に直面する「3つの実務的な壁」と、その乗り越え方について解説します。
※本記事は2025年11月21日時点の政府公表資料(中間とりまとめ案等)に基づいています。
「1日だけ」なら確認不要? 短期・単発スタッフの線引き
「学園祭のゲストで呼ぶ講師は?」
「1日体験イベントの補助スタッフは?」
このように、継続的に勤務するわけではないスタッフの扱いに迷うケースは多いでしょう。
日本版DBSの認定要件の一つに、事業の「継続性」があります。
これに伴い、従事者の確認要否も「継続的な関係があるか」で判断される傾向にあります。
判断のポイント:その業務は「継続的」か「閉鎖的」か
政府の指針案を読み解くと、以下のような線引きが見えてきます。
- 【確認不要の可能性が高いケース】
- 1回限りのゲスト講師: 年に1回、外部から招いて講演会を行う場合など、子供との関係が一過性である場合。
- オープンな場での単発イベント補助: 衆人環視(多くの人の目がある)の状況で、1日限りのお手伝いをするボランティアなど。
- 【確認が必要となるケース】
- 合宿・キャンプのボランティア: たとえ数日間でも、宿泊を伴う行事は「閉鎖性(密室リスク)」が極めて高いため、ボランティアであっても確認対象となります。
- 「毎週〇曜日」のバイト: 勤務時間が短くても、反復継続して指導に関わる場合は、当然に対象となります。
「たった数日のために手続きをするのは大変」と思われるかもしれませんが、特に「宿泊行事」に関しては、リスク管理の観点から例外なく確認を行うべきです。
「明日から来てほしい!」に応えられない? 「いとま特例」の落とし穴
学習塾や学童保育の現場では、「急に先生が辞めたので、明日から新しいバイトに来てほしい」という状況が日常茶飯事です。 しかし、日本版DBSの確認には、申請から結果通知まで最短でも2週間程度かかると見込まれています。
「結果が出るまで2週間、働かせられないの?」
そうした現場のために用意されているのが「いとま特例(救済措置)」ですが、これには大きな落とし穴があります。
「いとま特例」を使うための厳しい条件
「急な欠員」などのやむを得ない事情がある場合に限り、確認結果が出る前でも業務に従事させることができますが、その代わり、以下の代替措置が義務付けられます。
- 子供と絶対に1対1にさせない(常に他の正規職員等が同席する)。
- 防犯カメラ等で常時モニタリングする。
- 管理職が頻繁に巡回・確認を行う。
つまり、「特例を使えば今まで通りすぐに働かせられる」わけではありません。「一人前の戦力としては数えられない(誰かの監視が必要)」ということです。 人手不足を解消するために採用したのに、その監視のために既存スタッフの手が取られる……という本末転倒な事態になりかねません。
【対策】 やはり基本は「採用スケジュールの前倒し」です。 「採用決定」から「勤務開始」までに最低2週間〜1ヶ月のリードタイムを確保するよう、年間の採用計画を見直す必要があります。
壁③:派遣スタッフは「派遣会社」がやってくれない?
英語教室のネイティブ講師や、スイミングスクールのバス運転手など、派遣会社からスタッフを受け入れている場合。 「派遣会社がチェックしてくれているだろう」と思い込んでいませんか?
実は、日本版DBS法において、確認義務を負うのは「派遣元(派遣会社)」ではなく、「派遣先(あなた)」なのです。
なぜ「派遣先」がやるのか?
認定を受け、子供たちの安全を守る責任を負っているのは、教室を運営している皆様(派遣先)だからです。法律上、派遣社員に対して指揮命令権を持つ皆様が、安全確保措置の一環として確認を行う必要があります。
実務上の対応策:契約書で縛る
とはいえ、自社の採用プロセスに乗せられない派遣スタッフの情報を管理するのは手間がかかります。 そこで実務上は、「労働者派遣契約書」の中に以下の条項を盛り込むことが重要になります。
- 派遣元は、日本版DBSによる確認(または同等の確認)を済ませたスタッフのみを派遣すること。
- もし派遣後に問題が発覚した場合、速やかに代替スタッフを手配すること。
このように、法的な義務者は「派遣先」であることを理解した上で、実務上の負担を「派遣元」とどう分担するか、契約による取り決めが考えられます。
まとめ:現場の運用ルールを「今」作ろう
- 単発でも「宿泊」なら要確認。
- 「いとま特例」はコスト高。採用の前倒しが最善策。
- 派遣スタッフの管理は「契約書」の見直しから。
日本版DBSは、単に「犯歴を見る」だけの制度ではありません。
それを運用するための「採用フロー」や「契約実務」を根底から変える制度です。
特に、人の入れ替わりが激しい事業者様こそ、今のうちに「誰を、いつ、どうやって確認するか」という運用ルールを固めておかないと、施行直後に現場がパニックになります。
当事務所では、「対象従事者の仕分け診断」や、派遣会社と結ぶ「覚書・契約書のリーガルチェック」、ボランティア向けの「同意書・説明文書」の作成も対応しております。
「ウチの現場の実態に即した運用ルールを作りたい」という経営者様は、ぜひお気軽にご相談ください。
