2026年12月25日に施行が予定されている「こども性暴力防止法(日本版DBS)」は、学習塾、スポーツクラブ、放課後児童クラブなどの民間教育保育等事業者の皆様にとって、事業の根幹に関わる最重要課題です。この制度において、国の「認定」を取得し、保護者からの揺るぎない信頼を確保するためには、法が定める厳格な安全確保措置と情報管理措置の体制整備が不可欠となります 。
そうした中で、こども家庭庁の検討会より公表された「中間とりまとめ」は、法施行に向けた実務的な準備の羅針盤となるものです。この文書には、私たちが直面する「対象事業の範囲」「認定基準」「犯罪事実確認の期限」「防止措置の内容」など、具体的な法令運用を決定づける多岐にわたる核心的な論点(検討課題)が詳細に示されています 。

この制度において、国の「認定」を取得し、保護者からの揺るぎない信頼を確保するためには、法が定める厳格な安全確保措置と情報管理措置の体制整備が不可欠となります。国の認定マークを表示できる事業者は、地域で「安全の可視化」による最強のブランディングを確立し、「選ばれる教室」となることができます。
しかし、認定を取得した事業者(認定事業者等)が直面する最も時間的・労務的な負担が大きい課題こそが、施行時点で既に在籍しているスタッフ、すなわち現職スタッフの性犯罪歴確認(DBSチェック)をいかに円滑に、そして義務期間内に完了させるかという点です。
今回は、認定事業者等が負う「現職者確認」の法的義務とその厳格な期限、避けるべき法的リスクについて、行政書士の視点から詳しく解説します。
認定事業者だけに課される「1年以内」という厳格な期限
「こども性暴力防止法」は、児童等に接する業務(教育保育等従事者の業務)に就く全ての人に対し、特定性犯罪歴がないかを確認することを義務付けています。この確認義務は、新規採用者だけでなく、認定を取得した時点で既に働いているスタッフにも適用されます。
現職者(認定時現職者)の定義
認定事業者等が確認を行うべき現職者(法律上は「認定時現職者」と呼ばれます)とは、以下の者を指します。
- 認定等の際現に当該業務に従事させている者。
- 認定等を受けた日(認定等の日)の前日までに当該業務に従事させることを決定していた者であって、認定等の日の後に当該業務に従事させる者。
つまり、貴社が国の認定を受けた時点で、既に働いている、または採用が内定しているスタッフ全員が「認定時現職者」として確認の対象となります。
現職者確認の法的期限
この認定時現職者に対する犯罪事実確認は、法律により厳格な期限が定められています。 認定事業者等は、認定等の日から起算して1年以内で政令で定める期間を経過する日までに、全ての認定時現職者について犯罪事実確認を行わなければなりません。
この「1年以内」という期限は、学校や認可保育所などの義務事業者が、施行日から3年以内の期限を持つ「施行時現職者」の確認に比べて、民間認定事業者に課される非常に短い期間であることを意味します。この猶予期間の短さこそが、早期の準備を不可欠にする最大の要因です。
なぜ「1年以内」の期限が経営上のリスクとなるのか
「1年以内」という猶予期間は、現職者確認に付随する実務上の難しさを考慮すると、決して長くありません。特に、以下の理由から、早期に労務・法務の準備に着手することが不可欠です。
理由① 従業員の「同意」を得るプロセスとプライバシー保護
特定性犯罪歴の有無に関する情報(犯歴情報)は、極めて機微性の高い個人情報です。事業者がこの情報を取得するためには、従事者本人から戸籍情報等を国(こども家庭庁)に提出するという、前例のない手続きへの協力と同意を得る必要があります。
施行直前に急な説明を始めた場合、従業員が「なぜ必要なのか」「プライバシーは守られるのか」と不信感を抱き、協力や同意を拒否する可能性があります。法定義務の履行を確実に進めるためには、従業員に対し、制度の趣旨とプライバシー保護体制について事前に書面等で丁寧に伝達することが重要となります。
理由② 就業規則の整備と労務リスク回避
現職者に特定性犯罪歴が確認された場合、事業者は「児童等に接する業務に就かせないこと」などの防止措置を講じる義務があります。これには、配置転換、業務範囲の限定、または解雇といった雇用管理上の措置が想定されます。
特に、すでに働いているスタッフに対して、犯歴のみをもって直ちに解雇することは、労働契約法上、客観的合理性を欠く可能性があるとして警鐘が鳴らされています。
事業者が適法に防止措置を行うためには、「解雇権の濫用」とみなされる事態を防ぐため、就業規則に懲戒事由や配置転換の規定を明確に定めておく必要があります。この就業規則の整備と従業員への周知には、最低でも3〜6ヶ月を要するため、認定後に準備を開始したのでは手遅れになる可能性があります。
配置転換の検討義務というハードル
日本版DBS法は、犯歴がある者を「児童等と接する業務に従事させないこと」を求めていますが、「会社から追い出しなさい(解雇しなさい)」とは言っていません。
既存従業員に犯歴が発覚した場合、会社には、児童と接しない他の業務(例:教材開発部門、深夜帯の清掃・事務、大人向け講座の講師など)へ配置転換が可能かどうかを検討する義務が生じます。その上で、「配置転換できるポストが物理的に存在しない」場合や、「本人が異動を拒否した」という特別な事情があって初めて、普通解雇等の検討が可能になります。
いきなり「クビだ!」と告げるのは、労働法違反となりかねません。
トラブルを未然に防ぐため、制度の運用フローと合わせて、就業規則を法律の要件に合わせて改定する予防法務が不可欠です。
最高レベルの機密保持!情報管理体制の構築
現職者確認で事業者が取得する犯歴情報(犯罪事実確認記録等)は、個人のプライバシーの中でも最も機微な情報であり、日本版DBS法により、極めて厳格な管理が求められます。
もし、この情報が社内で不用意に共有されたり、管理不備により漏洩したりした場合、認定の取消しはもちろんのこと、刑事罰(1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金)の対象となり得ます。
相互牽制と「Need to Know」の原則
法律は、犯歴情報を「児童等への防止措置」を実施する目的以外の目的で利用したり、第三者に提供したりすることを厳しく禁止しています。
小規模事業者であっても、情報漏洩や不正(改ざんや隠蔽)を防ぐため、政府の指針案では、情報管理の責任者を含めて2人以上の従事者が必要である(相互牽制を効かせる)ことが検討されています。
情報管理において最も重要な原則は、「知る必要がある人(Need to Know)以外には一切遮断する」ことです。具体的には、犯歴情報の内容(罪名等)そのものは、防止措置(配置転換など)の実施に必要な限度でのみ共有が許されます。
認定申請を行う際、事業者はこれらの組織的、人的、物理的、技術的な安全管理措置を明文化した「情報管理規程」を策定し、国に提出しなければなりません。
期限厳守の重要性:認定取消しは事業の致命傷
現職者確認の義務を怠った場合の法的警告は、非常に重いものです。
認定事業者等が、正当な理由なく1年以内に現職者全員の確認を完了しなかった場合、それは法律に定められた義務の違反となります。この義務違反は、内閣総理大臣による認定の取消し事由(必要的取消事由)に該当します。
認定を取り消された場合、その事業者は2年間は再度認定を受けることができないという欠格期間が生じます。認定マークの表示(法第23条)ができなくなることは、保護者への信頼性を失い、事業の信頼性と集客に致命的な打撃を与えることになります。
全ての事務作業を期限内に完了させ、法的なリスクを回避するためには、行政書士などの専門家を活用し、施行までの準備を滞りなく進めることが有効な策と言えます。
結論:行政書士による計画的な「DBS導入プロジェクト」支援
認定時現職者の確認は、法務、労務、情報管理の全ての要素を連動させた、計画的なプロジェクト管理が求められます。
当事務所では、貴社が「1年以内」という厳しい期限を確実にクリアできるよう、認定ロードマップの策定と管理から、情報管理体制の構築まで、ワンストップで支援を提供します。
- 労務リスクの徹底回避:採用選考時の誓約書や、万が一の際の配置転換規定など、労働法制上のトラブルを防ぐための就業規則等の整備を、社会保険労務士と連携してサポートします。
- 認定ロードマップの策定と管理:認定取得日から逆算し、現職者の同意取得、規程整備、分散申請のタイミングを見据えた、実行可能なスケジュールを構築します。
- 情報管理体制の構築:犯歴情報(犯罪事実確認記録等)を厳格に管理するための情報管理規程の策定、運用設計、および法定帳簿の作成・保存に関する指導を行います。
煩雑な事務作業と法的なリスクは、全て専門家である私たちにお任せください。 私たちは、認定手続きや公的な規定作りは行政書士の専門領域、就業規則の変更や具体的な労務対応については社会保険労務士、紛争対応については弁護士と、専門家チームで連携します。
貴社の経営資源を「こどもと向き合う」という本来の業務に集中させ、日本版DBS制度を「選ばれる教室」となるための成長戦略へと変えていきましょう。
2026年12月の施行直前になって慌てないために、まずは当事務所の「リスク診断&導入相談」をご利用ください。
