導入
日本版DBSという言葉を聞き、「結局、何をする制度なのかがよく分からない」と感じている事業者は少なくありません。
この記事では、日本版DBSとは何なのかを整理し、学習塾やスポーツ教室、音楽教室といった民間事業者が最初に理解しておくべき制度の本質を解説します。
結論
日本版DBSとは、こどもと接する業務に就く人に対し、性犯罪歴がないかを確認する仕組みの通称であり、正式には「学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律(こども性暴力防止法)」に基づく制度です。
これにより、こどもたちの安全を確保し、性被害を未然に防ぐことを目的としています。
「DBS」とは、「Disclosure and Barring Service」の略です。これはイギリスに存在する公的な機関および制度の名称に由来します。イギリスでは、子供や社会的弱者と関わる仕事に就く人に対して、DBS(前歴開示・前歴者就業制限局)が発行する証明書の提出を求める仕組みが定着しており、日本の新制度はこの仕組みをモデルにしていることから「日本版DBS」と呼ばれています。
なぜ?
制度側の背景
制度設計の背景には、採用時の「個人の資質」や「性善説」に依存した従来の安全対策の限界があります。 これまで現場では「人柄を信じる」「経験が長いから大丈夫」といった主観的な判断に頼りがちでしたが、それだけでは防ぎきれない児童対象性暴力等の事案が後を絶ちません。
その結果、国が関与する公的な仕組みとして、「事業者が客観的な事実(犯歴)に基づき組織として確認し、管理する」枠組みを法制化する必要が生じました。これが日本版DBS(こども性暴力防止法)の基本的な考え方です。
現場側の事情
一方で、現場からは「大規模な施設向けの話ではないか」「うちは少人数だから関係ないだろう」といった声も聞こえてきます。 特に個人経営や小規模な学習塾の経営者は、制度の全体像が掴めないまま、漠然とした不安だけが先行しているのが実情かもしれません。
しかし、この認識のズレを放置したままでは、必要以上に身構えて疲弊したり、逆に本来必要な準備を怠ってしまい、制度開始後に取り残されるという、残念な事態を招きかねません。
日本版DBS制度についての整理
日本版DBSの中心となるのは、こどもと接する業務に就く人について、一定期間内の性犯罪歴を確認する仕組み(犯罪事実確認)です。
確認行為の方に目が行きがちですが、もう一つ重要なのが、事業者側の「体制整備」です。単に過去の犯歴をチェックすれば終わりではなく、人員配置の考え方、従業員への研修の実施、そして情報の管理方法まで含めて、事業者の責任として整理・構築することが法律で求められています。
現場ではどう対応すべきか
最初にやるべきことは、自社の事業内容、人の配置、こどもとの関わり方の「棚卸し」です。
例えば学習塾であれば、講師は当然対象となりますが、受付スタッフや自習室の管理者、送迎バスの運転手はどうでしょうか? 「こどもと1対1になる可能性があるか(閉鎖性)」「継続的に関わるか(継続性)」といった基準で、どの業務が対象になり得るのかを整理する必要があります。 これを行わないまま制度への対応に入ると、現場で大きな混乱が生じるでしょう。この点については、別のコラムで詳述します。
行政書士の視点
専門家の視点から見ると、日本版DBSは、民間教育保育等事業者の経営を二極化させる「踏み絵」のような側面を持っていると考えています。
• 積極派: 認定を取得し、国が発行する「認定マーク」を掲げることで、保護者からの信頼獲得と競合との”差別化”を図る事業者。
• 慎重派: 認定に伴う「厳格な管理責任(情報管理・定期報告等)」と「コスト」をリスクと捉え、認定を見送る事業者。
どちらを選択するにせよ、それは重要な経営判断です。現在はこども家庭庁のガイドライン策定を待つ段階ですが、制度の全体像を把握し、自社の方針を固める準備は今から始めておいた方がいいでしょう。
よくある質問(FAQ)
Q. 日本版DBSとは何ですか
A. こどもと接する業務に就く人について、性犯罪歴がないかを確認するための制度です。制度の目的は、事業者が組織として安全体制を整えることにあります。制度の趣旨を理解したうえで、自社の体制整備から始めることが重要です。
Q. 日本版DBSはすべての事業者が対象ですか
A. すべての事業者が一律に義務対象となるわけではありません。学習塾などの民間事業者は認定対象として整理され、義務化されるわけではありません。まずは自社がどの区分に当たるかを確認する必要があります。
Q. 何から始めればよいかわかりません
A. まずは制度の全体像を把握し、自社の業務内容が対象となるか確認することが出発点です。民間事業者であれば、認定を受けるかどうかをしっかり話し合うための、情報収集と現状把握から始めることが肝要です。
次に取るべき行動
まずは自社の事業内容と人の配置を整理してみましょう。
そのうえで、日本版DBSという新制度が、自事業にどう関わってくるのかを整理することが、次の具体的対応につながります。
本記事で解説した内容は、現行の「学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律」(法令)、およびこども家庭庁が公表している情報(2025年12月上旬時点)に基づき構成しています。
現時点で明確になっている骨格情報に基づき解説していますが、制度の詳細、具体的な申請手順、情報管理措置の細目、および雇用管理上の詳細な留意点等については、今後策定される予定の内閣府令等の下位法令やガイドライン、そして年明けから本格化する全国説明会などの周知資料において明確化されることになります。
最新かつ詳細な情報については、必ずこども家庭庁のウェブサイトや今後公表される正式なガイドライン等をご確認ください
