この記事で分かること
日本版DBSの「認定」を取得したいと考える民間事業者にとっての要件である、「6か月以上の修業期間」「対面指導」については前回、前々回にて解説をいたしました。


今回は3つ目の要件である「場所」についてです。
「家庭教師派遣業は対象になるの?」
「個人のピアノ教室で、生徒の家に出張レッスンに行っている場合は?」
「店舗を持たず、毎回公民館や公園で活動しているサークルは?」
指導が行われる場所を問う「事業者が用意する場所において指導を行うものであること」という基準について、具体的なOK/NGラインを解説します。
結論
民間教育事業(学習塾等)が認定を受けるには、「事業者が用意する場所(事業所等)」で指導を行わなければなりません。
これには、自社物件だけでなく、レンタルスペースや公園なども含まれますが、重要なのは「児童(生徒)の自宅は対象外」という点です。
したがって、家庭教師や訪問型のレッスンのみを行っている事業は、原則として認定の対象外となります。
なぜ?
制度側の背景
日本版DBS(こども性暴力防止法)は、事業者が管理する「密室」などの閉鎖的な環境で、こどもへの支配性が強まるリスクを想定しています。
しかし、指導の場が「児童の自宅」である場合、そこは保護者の管理下にある空間であり、事業者が一方的に支配的な環境(密室等)を作り出すことは難しいと考えられます。そのため、児童の自宅で行う事業は、本制度が想定するリスク(支配性・閉鎖性)の要件に当てはまらないとして、認定の対象から外されています。
現場側の事情
一方で、家庭教師やベビーシッターのマッチングサイトなど、自宅訪問型のサービスは増えています。こうした事業者も「安心・安全」をアピールするために認定マークを取得したいと考えるケースはあるかもしれませんが、現在の制度設計では「場所」の要件で対象外となります。
日本版DBSの制度整理:場所要件のポイント
国のガイドライン案では、「当該事業を営む者が当該事業を行うために用意する場所」について、以下のような判断基準が示されています。
1. 自宅訪問型(家庭教師・出張レッスン)
- 【対象外】 指導場所が「児童等の自宅」である場合。
- 保護者が指定した場所や区画で行う場合も対象外です。
2. 教室・テナント型
- 【対象】 事業者が所有・賃借しているオフィス、教室、スタジオなど。
3. 公共施設・屋外型
- 【対象】 店舗を持たずとも、事業者が予約・確保した「公民館の会議室」「カフェ」などは、「事業者が用意した場所」として認められ、対象となります。
4. 講師の自宅
- 【対象】 いわゆる「自宅兼教室」のように、講師の自宅に生徒を招いて行う場合は、事業者が用意した場所として対象になります。
現場ではどう対応すべきか
自社のサービスが「どこで行われているか」を確認してください。
家庭教師派遣業であっても、もし「駅前の教室での指導」や「オンライン指導+スクーリング(教室)」といったコースを併設している場合は、その「教室で行う事業」部分については要件を満たし、認定対象となる可能性があります。
一方、完全な訪問型サービスの場合は、日本版DBSの「民間教育事業」としての認定は受けられません。
ただし、ベビーシッターのマッチングサイト運営者などが、個人のシッターと委託契約を結び、自らが主体となって保育サービスを提供する場合は、「民間教育事業」ではなく「認可外保育事業」という別の枠組みで認定の対象となる道が用意されています。自社がどの事業区分に該当するか、慎重な確認が必要です。
行政書士の視点
この要件は、「事業者が場所をコントロールできるか」という点に着目しています。
申請時には、事業の実施場所が分かる資料(ウェブサイトやパンフレット等)の提出が求められます。「店舗がないからダメ」と諦める必要はありません。サッカースクールが「公園」や「グラウンド」を利用する場合や、英会話サークルが「カフェ」を利用する場合も、それが事業として継続的に場所を確保しているものであれば、認定の対象となり得ます。
逆に、訪問型事業者が無理に認定を取ろうとするのは制度趣旨に反します。訪問型の場合は、認定マークに頼らず、独自に講師の身元保証を厳格化するなど、別の方法で信頼性を担保する戦略が必要です。
よくある質問
Q. 生徒の家の近くのファミレスで教えていますが対象ですか?
A. 事業者がその場所を指定・用意して指導を行っているのであれば、対象となり得ます(「カフェ」等が対象例として挙げられています)。ただし、保護者が指定した場所であれば対象外となる可能性があります。
Q. 家庭教師ですが、たまに公民館も使います。
A. 児童の自宅以外で教える場合が含まれていれば、その事業は認定の対象となり得ます。
Q. 送迎バスの中は「場所」に含まれますか?
A. 移動中のバス内も密室となり得るため、安全確保措置の対象となる「場所」として考慮されますが、認定要件としての「指導を行う場所」のメインがバスのみ(移動教室など)である場合は、個別に確認が必要です。
次に取るべき行動
自社のサービスが「どこで行われているか」、そしてその場所は「誰が指定・用意しているか(事業者か、保護者か)」を整理し、要件に合致するか確認しましょう。

本記事で解説した内容は、現行の「学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律」(法令)、およびこども家庭庁が公表している情報(2025年12月上旬時点)に基づき構成しています。
現時点で明確になっている骨格情報に基づき解説していますが、制度の詳細、具体的な申請手順、情報管理措置の細目、および雇用管理上の詳細な留意点等については、今後策定される予定の内閣府令等の下位法令やガイドライン、そして年明けから本格化する全国説明会などの周知資料において明確化されることになります。
最新かつ詳細な情報については、必ずこども家庭庁のウェブサイトや今後公表される正式なガイドライン等をご確認ください