【基本編】認定を受けることによるメリット

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前回までは、制度の仕組みや「自社が対象かどうか」という判断基準について解説してきました。 今回からは、いよいよ経営者の皆様が最も頭を悩ませる「経営判断」のフェーズに入ります。

多くの事業者様から、「手間もコストもかかるなら、認定を取らなくてもいいのでは?」というご相談をいただきます。確かに、認定取得には相応の準備と覚悟が必要です。しかし、この制度を「単なる規制」と捉えるか、「信頼獲得のチャンス」と捉えるかで、数年後の教室運営に大きな差がつくと私は考えています。

今回は、あえて「攻め」の視点から、民間事業者が日本版DBS認定を取得する3つのメリットについて深掘りします。

目次

この記事で分かること

  • 「認定マーク」が持つ集客上のブランディング効果
  • 履歴書では見抜けないリスクを排除する「水際対策」
  • 「良い人材」が集まる職場環境作り
  • 認定取得がもたらす競合他社との差別化

結論

結論から申し上げます。
学習塾やスポーツクラブにとって、日本版DBSの認定を取得することは、「保護者に対するこれ以上ない安心材料」となります

法律上、民間事業者は認定を受けなくても営業を続けることは可能です(義務ではありません)。 しかし、性犯罪のニュースが後を絶たない昨今、保護者の意識は劇的に変化しています。「国が認めた安全対策を行っている教室」という事実は、カリキュラムや料金以上に強力な「選ばれる理由」になり得ます。

メリット①:「認定マーク」による圧倒的な信頼獲得

認定を受けた事業者は、国(こども家庭庁)が定める「認定マーク(仮称)」を使用できるようになる見込みです。また、認定事業者の情報は国のウェブサイトでも公表されます。

保護者への強力なアピール

このマークを教室の入り口、ホームページ、生徒募集チラシに掲示することで、「うちは安全管理にコストと手間をかけている」と一目で伝えることができます。 口頭で「安全です」と言うのと、国の認定マークがあるのとでは、説得力が段違いです。

競合他社との差別化

もし、近隣のライバル塾がまだ認定を取っていない場合、「当塾は日本版DBS認定事業者です」という一点だけで、明確な差別化要因になります。 逆に言えば、周りが取り始めたときに自社だけ取っていないと、「なぜ取らないのか?」という不信感につながるリスクがあるということでもあります。

メリット②:採用の「水際対策」と「抑止力」

人事・採用面でのメリットも計り知れません。最大の機能は、もちろん「性犯罪歴の確認」ができることです。

履歴書では見抜けないリスクを排除

一般的な採用面接や履歴書では、応募者の前科を知ることは不可能です。しかし認定事業者は、採用内定者等に対し、国を通じて過去の性犯罪歴(不同意わいせつ等)がないかを確認できます。 これにより、こどもたちを危険な人物から守るための具体的な「水際対策」が可能になります。

「抑止力」としての効果

実は、確認そのもの以上に効果的なのが「抑止力」です。 求人票に「採用時に日本版DBSによる確認を行います」と明記することで、やましい動機を持つ人物の応募を事前にブロック(自粛)させる効果が期待できます。 性犯罪加害者は、自分の過去がバレる場所には近づきません。認定事業者になること自体が、強力なバリアになるのです。

メリット③:健全な職場環境と求人力の向上

認定事業者に求められるのは犯歴確認だけではありません。研修や相談窓口の設置など、「安全確保措置」と呼ばれる体制整備が義務付けられます。 一見手間に見えますが、これは「ホワイトな職場」であることの証明にもなります。

まじめな講師が安心して働ける

「万が一のトラブルに備えた相談体制がある」「定期的な研修がある」という環境は、真面目に教育に従事したい講師にとっても安心材料です。 結果として、質の高い人材が定着しやすくなり、教室全体の教育レベル向上にも寄与します。

行政書士の視点

私たち行政書士が支援する際、多くの経営者様は「法律だから仕方なく対応する」というスタンスでスタートされます。 しかし、準備を進めるうちに、「これは保護者説明会で強力なアピール材料になりますね」と気づかれる方が増えてきます

日本版DBSは、確かにこどもを守るための規制ですが、事業者にとっては「安全という見えない価値を可視化するツール」でもあります。 施行直後はまだ認定事業者が少ないはずです。早期に取り組むことで、「地域で一番信頼できる教室」というポジションを確立できるチャンスとも言えます。

よくある質問

Q. 既存のスタッフも「安心」の対象になりますか?
A. はい、全員が確認対象となります。
新規採用者だけでなく、すでに働いている従業員(現職者)についても確認が必要です。認定事業者は、認定を受けてから一定期間内(1年以内など)に現職者の確認を行う義務があります。したがって、「当教室のスタッフは、ベテランも含めて全員が公的な確認をクリアしています」と胸を張って言えるようになります。

Q. アルバイトの学生も確認できますか?
A. できます(むしろ必須です)。雇用形態にかかわらず、こどもと接する業務を行うスタッフは確認の対象です。保護者からすれば、正社員かアルバイトかは関係なく「先生」です。アルバイト講師も含めて安全確認ができる点は、大きな信頼につながります。

Q. 業務委託のコーチやインストラクターはどうですか?
A. 実態としてこどもと接するなら対象です。派遣や業務委託であっても、施設内でこどもと接する業務を行う場合は対象となります。契約形態の抜け穴を作らず、教室に関わる全ての大人をチェックできるため、包括的な安全体制をアピールできます。

次に取るべき行動

今回は認定取得のメリットの部分をお話ししました。
「それならすぐに申請したい!」と思われたかもしれませんが、ちょっと待ってください。

認定を取得するということは、国に対して重い責任を負うということでもあります。メリットの裏側には、厳格な管理義務やコスト、そして法的リスクという「影」も存在します。

【次回のテーマ】 次回は、経営判断のもう一つの材料、認定事業者が背負う「3つのコスト」と「法的リスク」について、忖度なしに解説します。 メリットだけで飛びつくと火傷をする可能性があります。次回の記事も必ずセットでお読みください。

本記事の法令根拠と情報の取扱いについて

本記事で解説した内容は、現行の「学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律」(法令)、およびこども家庭庁が公表している情報(2025年12月上旬時点)に基づき構成しています。

現時点で明確になっている骨格情報に基づき解説していますが、制度の詳細、具体的な申請手順、情報管理措置の細目、および雇用管理上の詳細な留意点等については、今後策定される予定の内閣府令等の下位法令やガイドライン、そして年明けから本格化する全国説明会などの周知資料において明確化されることになります。

最新かつ詳細な情報については、必ずこども家庭庁のウェブサイトや今後公表される正式なガイドライン等をご確認ください

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