こども性暴力防止法の関係書類を読んでいると、「特定性犯罪事実該当者」や「安全確保措置」など、聞き慣れない漢字の羅列に頭を抱えてしまうことはありませんか?
法律用語は厳密さが求められるため、どうしても堅苦しくなりがちです。しかし、現場の経営者様が知りたいのは「要するに誰のこと?」「具体的に何をすればいいの?」という点だと思います。
そこで今回は、学習塾やスポーツ教室などの民間事業者が最低限押さえておくべき重要用語を、「現場の実務用語」に翻訳してまとめました。 この記事をブックマークして、マニュアルや規程を作る際の辞書としてご活用ください。
「誰が」対象なのか?
まずは、登場人物の整理です。「うちは対象?」を判断する基礎となります。
民間教育保育等事業者(みんかんきょういくほいくとうじぎょうしゃ)
学習塾、スポーツクラブ、習い事教室などのこと
法律に基づき、国の認定を受けることができる事業者の総称です 。学校や認可保育所(義務対象)とは異なり、参加は任意ですが、参加するには申請して「認定」を受ける必要があります 。
認定事業者等(にんていじぎょうしゃとう)
国からのお墨付きをもらった民間事業者のこと
申請をして、こども家庭庁から正式に「認定」を受けた事業者を指します 。これになって初めて、従業員の性犯罪歴を確認する権利(と義務)が発生し、「認定マーク」を看板などに掲示できるようになります 。
教育保育等従事者(きょういくほいくとうじゅうじしゃ)
こどもと接するスタッフ(正社員・バイト問わず)
認定事業者において、実際に犯歴確認の対象となる人のことです 。 重要なのは雇用形態ではありません。正社員だけでなく、パート、アルバイト、ボランティア、派遣労働者であっても、後述する「3つの要件」を満たす業務をする人は全員ここに含まれます 。
「誰を」チェックすべきか?
「事務員は対象?」「送迎バスの運転手は?」と迷った時に使う、最重要の判断基準です。
支配性・継続性・閉鎖性(しはいせい・けいぞくせい・へいさせい)
犯歴チェックが必要な業務かどうかの「3つの基準」 ある業務がチェック対象になるかは、職種名ではなく以下の3要素で決まります。
- 支配性: 先生と生徒のように、大人が指導・監督する立場にあるか 。
- 継続性: 単発ゲストではなく、継続的に接するか 。
- 閉鎖性: 1対1や密室など、第三者の目が届かない状況になり得るか 。
※事務職員や清掃員であっても、この3つを満たす実態があればチェック対象となります 。
「何を」調べるのか?
「どのレベルの犯罪までわかるの?」「セクハラはどうなの?」という疑問への答えです。
特定性犯罪(とくていせいはんざい)
システムでチェックされる「具体的な罪」
いわゆる「前科」として照会される犯罪の範囲です 。刑法の「不同意性交」「不同意わいせつ」などはもちろん、都道府県条例違反(痴漢、盗撮、のぞき見)も含まれる点が重要です 。
特定性犯罪事実該当者(とくていせいはんざいじじつがいとうしゃ)
システムで「犯歴あり」と判定される人
過去に性犯罪を犯し、以下の期間が経過していない人のことです 。
- 刑務所等に入っていた場合(実刑): 出てから20年
- 執行猶予がついた場合: 裁判確定から10年
- 罰金刑の場合: 払い終わってから10年。この期間内であれば、システム照会で「該当あり」と回答されます。
不適切な行為(ふてきせつなこうい)
犯罪手前の「グレーゾーン」や「グルーミング」
直ちに逮捕される犯罪ではないものの、エスカレートすると危険な行為のことです 。
- 例:生徒と個人的にLINE交換をする、密室で2人きりになる、特定の生徒だけひいきする、性的な冗談を言う 。 これらは犯歴チェックでは出てきませんが、事業者が独自にルールを作って禁止する必要があります。
「どうやって」進めるのか?
実際の業務フローで出てくる用語です。
犯罪事実確認(はんざいじじつかくにん)
システムを使って犯歴をチェックすること
事業者が、採用内定者や現職スタッフについて、こども家庭庁経由でデータベースにアクセスし、「犯歴があるかないか」を確認する手続きそのものです 。
いとま特例(いとまとくれい)
急ぎの採用時のための「見切り発車」ルール
「明日からどうしても講師が足りない!」といった緊急時に、結果が出るのを待たずに働かせる特例措置です 。ただし、結果が出るまでは「犯歴があるもの」とみなして、絶対にこどもと1対1にさせない等の厳しい制限をかける条件付きです 。
安全確保措置(あんぜんかくほそち)
犯歴チェック以外にやるべき「4つの義務」
認定事業者がやるべきことはチェックだけではありません。以下の4セットを指します 。
- 早期把握: 定期的な面談やアンケート
- 相談: 窓口の設置
- 調査・保護: 何かあった時の対応
- 研修: スタッフへの教育
児童対象性暴力等対処規程(じどうたいしょうせいぼうりょくとうたいしょきてい)
認定申請に必要な「マニュアル兼ルールブック」
認定を受けるために必ず作らなければならない書類です 。「事件が起きたら誰がどう動くか」「被害者をどう守るか」などが書かれた計画書のようなものです。
行政書士の視点
いかがでしたか?
特に「支配性・継続性・閉鎖性」や「不適切な行為」という言葉は、今後、就業規則やマニュアルを作る上で頻出します。
言葉の意味を正しく理解していないと、「事務員だからチェックしなくていいと思った(実は閉鎖性があった)」といった判断ミスにより、認定取消しなどのリスクを招くことになります。
わからなくなった時は、またこのページに戻ってきて確認してください。
本記事で解説した内容は、現行の「学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律」(法令)、およびこども家庭庁が公表している情報(2025年12月上旬時点)に基づき構成しています。
現時点で明確になっている骨格情報に基づき解説していますが、制度の詳細、具体的な申請手順、情報管理措置の細目、および雇用管理上の詳細な留意点等については、今後策定される予定の内閣府令等の下位法令やガイドライン、そして年明けから本格化する全国説明会などの周知資料において明確化されることになります。
最新かつ詳細な情報については、必ずこども家庭庁のウェブサイトや今後公表される正式なガイドライン等をご確認ください
