導入
「日本版DBS=性犯罪歴の確認システム」という認識は間違いではありませんが、それだけでは不十分です。 システムで「犯歴なし」と出れば、あとは何も対策しなくて良いのでしょうか? 実は、法律はそこから先の「予防」や「早期発見」の仕組みづくりもセットで求めています。
この記事では、犯歴確認以外に事業者が取り組むべき「安全確保措置」(面談、研修、窓口設置など)について、具体的に何をすればよいのかを解説します。
結論
日本版DBSの認定事業者には、性犯罪歴確認に加えて、以下の体制整備に関する複数の義務が課されます。
- 面談等による確認:採用時などに、システムではわからないリスクを確認する。
- 研修の実施:性暴力防止に関する意識啓発を行う。
- 相談体制の整備:こどもや保護者、同僚からの相談窓口を作る。
「確認だけ行えば足りる」という理解は誤りですので、注意が必要です。
なぜ?
【制度の限界】
犯歴確認システムでわかるのは、あくまで「過去に処分を受けた記録」だけです。
「まだ発覚していない加害者」や「これから加害を行うかもしれないリスク」までは、データベースでは弾けません。
【現場のリスク】
「システムでOKだったから安全な人だ」と過信し、密室での指導を放置したり、子供からのSOSを見逃したりすれば、結局は事故が起きてしまいます。だからこそ、システム以外の「人間の目」と「組織の仕組み」による二重三重の防止策が必要なのです。
日本版DBSの制度整理(安全確保措置)
法律では、事業者の義務として以下のポイントが挙げられています。
- 面談(本人確認)
単に履歴書を見るだけでなく、性暴力を行わないという意思確認や、過去の勤務状況などを直接確認することが求められます。 - 研修
「何が性暴力にあたるか」「疑わしい事案にどう対処するか」を、全従業員(アルバイト含む)に周知徹底する必要があります。 - 防止措置(配置転換等)
万が一、リスクが高いと判断された場合や、犯歴が確認された場合に、こどもと接しない業務へ配置転換するなどのルール作りが必要です。
現場での具体的対応
小規模な学習塾や教室で、実際にどう運用するかイメージしてみましょう。
- 面談の工夫
採用面接時に「児童対象性暴力等を防止するための誓約書」への署名を求め、その場で読み合わせを行うだけでも、抑止効果のある「面談」になります。 - 研修の工夫
外部講師を呼ばなくても、国が作成予定の動画教材を視聴し、受講記録(サイン)を残す形でも対応可能になる見込みです。重要なのは「実施した記録を残すこと」です。 - 窓口の設置
専用の電話回線を引く必要はありません。「何かあったら教室長ではなく、本部の〇〇さんへメールしてください」といった、現場から独立した連絡ルートを一つ確保するだけでも有効な相談体制になります。
行政書士の視点
これらの措置は、書類上だけで整えても意味がありませんが、「書類に残すこと」は認定維持のために極めて重要です。 「研修はやりました(でも記録はありません)」では、行政の監査が入った際に証明できません。 「いつ、誰が、どんな研修を受けたか」「面談で何を確認したか」を簡単なメモでも良いので記録に残す習慣を、今からつけておきましょう。
よくある質問
Q. 事業者にはどのような義務がありますか?
- 結論: 性犯罪歴確認に加え、面談、研修、情報管理、防止措置などの体制整備義務があります。
- 理由: 法律は単なるチェック機能だけでなく、組織的な防止体制を求めているからです。
- 注意点: 「システム利用料さえ払えばいい」という制度ではありません。
- 行動: 必要な措置を一覧化し、自社で足りない部分を確認しましょう。
Q. 現場から反発が出た場合の対処法はありますか?
- 結論: 制度の趣旨(こどもを守るため)と、情報管理の徹底を説明しましょう。
- 理由: 「研修が面倒」「疑われている気がする」といった不安は、説明不足から生じます。
- 注意点: 一方的な押し付けは不信感を招くため、丁寧な対話が必要です。
- 行動: 全体会議などで説明の場を設けましょう。
次に取るべき行動
まずは、現状の採用フローや研修制度に「性犯罪防止」の観点が含まれているか確認しましょう。 「うちは研修なんてやったことない」という場合は、「年に1回、コンプライアンス研修(動画視聴など)を行う」という計画を立てることから始めてみてください。
本記事で解説した内容は、現行の「学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律」(法令)、およびこども家庭庁が公表している情報(2025年12月上旬時点)に基づき構成しています。
現時点で明確になっている骨格情報に基づき解説していますが、制度の詳細、具体的な申請手順、情報管理措置の細目、および雇用管理上の詳細な留意点等については、今後策定される予定の内閣府令等の下位法令やガイドライン、そして年明けから本格化する全国説明会などの周知資料において明確化されることになります。
最新かつ詳細な情報については、必ずこども家庭庁のウェブサイトや今後公表される正式なガイドライン等をご確認ください
