2025年12月26日、日本経済新聞は「塾大手が日本版DBSの認証申請に動き出した」と報じました。
SAPIX、早稲田アカデミー、森塾、明光義塾、栄光ゼミナール、スクールIE――学習塾業界を代表する事業者がそろって申請の方針を示したことは、民間教育事業者にとって非常に象徴的なニュースです。

日本版DBS(こども性暴力防止法)は、2026年12月25日の施行を予定していますが、「まだ先の話」ではなく、すでに経営判断の材料として動き始めている制度であることが、今回の報道からも明確になりました。
本記事では、日経新聞の記事内容を踏まえながら、民間教育事業者が今押さえるべき実務対応を整理します。
日経新聞が報じた「大手塾の動き」が示すもの
日経新聞によると、こども家庭庁は2025年12月26日、日本版DBSの運用指針案を関係省庁会議に提示し、了承を得ました。この指針案では、
- 公立・私立学校、認可保育所などは対応が「義務」
- 学習塾やスポーツ教室、放課後児童クラブなどは「任意の認定制度」
という整理が明確に示されています。
注目すべきは、「任意」とされている民間事業者の側が、自ら進んで認定申請に動き始めている点です。記事では、各社が「より安全な教育環境を提供できる」「保護者の安心につながる」といった理由から、日本版DBSを前向きに評価していることが紹介されています。
「選別の材料」という言葉の重み
私もこれまで発信してきましたが、本記事の見出しにもある通り、日本版DBSは今後、保護者による事業者選択の材料になる可能性が高い制度です。
- 国の認定を受けているか
- 認定マークを掲示しているか
こうした点が、料金や合格実績と並んで比較される時代が来ることを、大手塾は敏感に察知しています。
日本版DBSの制度概要を改めて整理する
日本版DBSは正式には「学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律」といい、2024年6月に成立しました。施行は2026年12月25日の予定です。
制度の柱は大きく分けて次の4点です。
- 児童等に接する業務従事者の性犯罪前科の確認
- 早期把握・相談・調査・保護支援の体制整備
- 不適切行為を含む防止措置の実施
- 犯罪事実確認情報の厳格な管理
日経記事でも触れられている通り、犯罪歴の照会は、事業者がこども家庭庁を通じて法務省に行う仕組みが予定されています。
民間教育事業者が「認定対象」になる条件
学習塾やスポーツクラブなどの民間事業者が日本版DBSの対象となるためには、国の認定を受ける必要があります。その前提として重要なのが、次のような要件です。
- 対面で子どもを指導していること
- 指導者が原則3人以上の体制であること
- 一定期間(6カ月以上)、継続的に子どもと関わる事業であること
- 事業者が用意する場所で指導をしていること
これらはいずれも、制度設計上のキーワードである「支配性・継続性・閉鎖性」を踏まえた考え方です。個別指導塾、少人数制教室、送迎を伴うスクールなどは、まさに該当しやすい業態と言えるでしょう。
日経記事から読み取る「実務対応」の具体像
犯罪事実確認と採用・配置の現実
日経新聞は、すでにその職種に就いている人について性犯罪歴が判明した場合、原則として子どもと接する業務から除外する必要があると報じています。新規採用者についても、犯罪歴が確認された場合は内定取り消しを検討することが想定されています。
これは単なる制度論ではなく、
- 採用方針
- 配置転換の可否
- 人員計画
に直結する、極めて実務的な問題です。
大手塾が早期に動き出した背景には、施行後に発覚した場合の経営リスクを見据えた判断があります。
防犯カメラ・環境整備も「推奨事項」
記事では、防犯カメラの設置が日常的な安全確保策として推奨されていることにも触れられています。実際、SAPIXでは小学生向け全教室への防犯カメラ設置を完了したと紹介されています。
ここで重要なのは、「性犯罪歴の確認だけでは十分ではない」という認識です。
初犯を完全に防ぐことは難しいからこそ、
- 密室を作らない
- 1対1の状況を減らす
- 記録が残る環境を整える
といった環境面の対策が、制度の前提として重視されています。
「不適切な行為」の明確化が現場を守る
運用指針案では、「不適切な行為」の具体例も示されています。
- 子どもとの個人的なSNSでのやりとり
- 不必要な身体的接触
- 1対1での車による送迎
これらは直ちに犯罪とは言えなくても、繰り返されれば「性暴力のおそれ」と判断され、配置転換などの防止措置が必要になります。
大手塾の中には、「すでに社内ルールとして禁止している内容を、今後は明文化する」とコメントしている事業者もありました。これは、制度対応が既存ルールの棚卸しと高度化であることを示しています。
情報管理という新たな経営課題
日経新聞では、犯歴情報が「最もセンシティブな個人情報の一つ」である点も強調されています。認定を受ける事業者には、
- 情報を扱う担当者を最小限にする
- 不要な記録・保存を避ける
- 定期的な報告を行う
といった厳格な情報管理が求められます。
これは中小規模の事業者にとって負担にもなり得ますが、逆に言えば、体制を整えている事業者ほど評価される仕組みとも言えます。
大手が動いた今、中小事業者が取るべきスタンス
日本版DBSは「義務か任意か」という二択で考える制度ではありません。
- 将来の保護者の目線
- 採用・人材確保への影響
- 事業の信頼性と持続性
これらを総合的に考えたとき、認定取得は経営戦略の一部になりつつあります。
日経新聞が報じた大手塾の動きは、その先行指標と言えるでしょう。
施行まで残り約1年。いまの段階から、
- 自社が認定対象になり得るか
- 就業規則や運営ルールは十分か
- 情報管理体制をどう構築するか
を整理しておくことが、将来の選択肢を広げます。
日本版DBSは、こどもたちの安全を守るための制度であると同時に、「選ばれる教育事業者」になるための試金石でもあります。大手が動き出した今こそ、自社にとっての最適な対応を考える時期に来ています。
