【ゼロからわかる日本版DBS #06】「何かあったら言ってね」では不十分?義務化される面談と相談窓口の作り方

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前回、第5回では、認定申請の前提条件となる「4つの安全確保措置」の全体像について解説しました。日本版DBSの認定を受けるためには、犯歴確認という「再犯防止」だけでなく、面談や研修といった「未然防止(初犯防止)」の体制が整っていることを証明しなければなりません

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今回は、その4つの宿題の中でも多くの事業者がまず直面する実務、「早期把握(面談・アンケート)」と「相談窓口」の具体的な作り方について、国のガイドラインの法的要件に基づき解説します。

「先生、ちょっと話があるんだけど……」

こどもからそんなふうに相談に来てくれるなら、苦労はありません。 しかし、性被害に限らず、いじめや家庭の悩みなど、こどもが自分から大人に「助けて」と言い出すのは、私たちが想像する以上にハードルが高いものです。

日本版DBS(こども性暴力防止法)の認定制度においては、こどもからのSOSを待つだけの「受け身の姿勢」は許されていません。 事業者は、能動的にリスクを見つけに行く「早期把握」の仕組みと、こどもが安心して声を上げられる「相談体制」を整備することが義務付けられます

目次

「待っているだけ」では認定取得できない

認定事業者に求められる安全確保措置の一つに、「早期把握」があります。 これは、性暴力のおそれがないかどうかを、事業者側から働きかけて見つけ出す取り組みです。

国の「ガイドライン」では、以下の実施が義務付けられています。

  • 児童等の日常的な観察
  • 発達段階や事業の特性に応じた「定期的な面談」又は「アンケート(質問票の使用)」

つまり、「何かあったら言ってね」と伝えておくだけでは不十分で、定期的にこちらから聞く機会(仕掛け)を作らなければなりません

義務化される「面談・アンケート」

では、具体的にどのくらいの頻度で、何をすればよいのでしょうか。

頻度とタイミング

ガイドラインでは、これらの措置を「定期的」に行うことを求めています。実務上の認定基準としては、少なくとも年に1回以上の実施が必要です。 実務的には、学期末や、季節講習の終わりなど、事業の区切りに合わせて「年に1回程度」実施するのが現実的かつ効果的と考えられます。

具体的な運用においては、以下の点に留意することが求められます。

  • 実施方法の工夫:アンケートがこどもの負担にならないよう、既存のいじめアンケート等に性暴力に関する設問を数問追加する方法も有効です。
  • 回答の安全確保:こどもが周囲の目を気にせず、正直に気持ちを打ち明けられるよう、ウェブアンケートやアプリを活用したデジタル化や、無記名式の検討など、回答者を守る仕組みが重要になります。

何を聞けばいいのか?

「性被害」という言葉を直接使うかどうかは、こどもの年齢(発達段階)によります。 横断指針では、以下のような設問例が示されています。

  • いやなのに、あるいは不安だなと思うのに体に触られた、触らせられたことはありますか?
  • あなたのまわりに、そのようなことで困っている友人はいますか?

未就学児の場合はどうする?

言葉でうまく表現できない幼児や、障害のあるこどもの場合、アンケートは困難です。 その場合は、「日常的な観察」や、保護者との面談・送迎時の会話を通じて変化を把握することが中心になります。 「いつもと違う様子はないか」「急にお漏らしが増えた」「着替えを嫌がる」といったサインを、保護者と連携して見守ることが重要です。

「相談窓口」は2種類用意する

次に「相談体制」です。 事業者は、こどもがいつでも相談できる窓口を設置し、それを周知しなければなりません。 ここで重要なのは、「内部」と「外部」、2つの窓口を案内する必要があるという点です。

事業者内部の窓口

教室のスタッフや責任者を相談員として選任したり、相談用のメールアドレスを設置したりします。 「先生には言いにくい」という場合もあるため、普段接している担当講師以外のスタッフ(事務担当や教室長など)にも相談できるルートを作っておくことが望ましいです。

外部の相談窓口

もし、加害者が教室の先生だった場合、こどもは教室内の誰にも相談できなくなってしまいます。 そのため、法では「外部の相談窓口」もあわせて周知することを義務付けています。

具体的には、以下のような公的な窓口の連絡先を、ポスターやカードにしてこどもたちに伝える必要があります。

  • こどもの人権110番(法務省)0120-007-110(通話料無料)
  • 児童相談所虐待対応ダイヤル(こども家庭庁)189(いちはやく)(通話料無料)
  • 性暴力に関するSNS相談「Cure time(キュアタイム)」(内閣府)https://curetime.jp/

これらを周知することは、「ウチの教室は、外部の目を入れてでも安全を守る覚悟がある」という強いメッセージになります。

「こどもの変化」を見逃さない

面談やアンケートだけでなく、日々の「観察」も義務の一つです。 しかし、漠然と見ていても「変化」には気づけません。 横断指針では、「性暴力を受けた児童によくみられる反応」として、以下のようなチェックポイントを挙げています。

  • からだの変化:頭痛、腹痛、食欲不振、おねしょ(退行現象)など
  • こころの変化:元気がなくなる、あるいは過度にはしゃぐ、情緒不安定、集中力の低下
  • 行動面の変化:身体を触られるのを極端に嫌がる、特定の大人を避ける(または過度に近づく)、性的な言動が増える

「最近、あの子、急に遅刻が増えたな」
「着替えの時間を妙に嫌がるようになったな」

こうした小さな違和感を見逃さず、「どうしたの?」と声をかけたり、他のスタッフと情報を共有したりする文化を作ることが、最大の防御策になります。

日常の観察や相談を通じて「何かおかしい」という疑いを把握した際、現場の判断で放置されることが最大のリスクです。

ガイドラインでは、疑いを把握した際の「報告方法」「報告先」「対応手順」をあらかじめルール化し、スタッフや保護者に周知することを義務付けています

特に、組織内の権限が強い人物が疑われた場合でも適切に機能するよう、匿名で通報できる仕組みや、外部の通報窓口(行政機関や弁護士など)についても周知しておくことが、組織の自浄能力を高め、初犯を未然に防ぐことにつながります。

まとめ

今回のポイントをまとめます。

  • 「何かあったら言って」はNG。年1回以上の面談やアンケートを能動的に実施する。
  • 相談窓口は「内部」だけでなく、公的な「外部窓口」も必ずセットで案内する。
  • 疑いが生じた際の報告ルートをあらかじめ定め、全員で共有しておく。

外部の相談窓口を周知することは、例えるなら、建物に「非常階段」を設置し、その場所を全員に知らせておくようなものです。出口が複数あることをこどもたちが知っていることこそが、安心できる教室づくりの第一歩となります。

次回は、これら安全対策の実効性を高めるために避けては通れない「スタッフ研修」の進め方について解説します。座学だけでなく、なぜ「演習」が必須とされているのか、その実務的な理由に迫ります。

日常の教育・保育の現場に馴染む、無理のない体制づくりを一緒に進めていきましょう。

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