2026年1月29日、読売新聞にて「医療従事者による未成年患者への性被害、こども家庭庁が調査」という重要な記事が報じられました。

記事によれば、過去3年間に性犯罪で有罪が確定し、行政処分を受けた医師・歯科医師は計63人に上るとのこと。密室での診察という特性上、こどもが被害を訴えにくい環境にある医療機関ですが、実は現時点での「日本版DBS(こども性暴力防止法)」では、犯歴確認の枠組みから外れています。
今回は、このニュースの深層と、法律の成立時に付された「附帯決議」を読み解きながら、医療機関が今後どのように規制されていくのかを解説します。
なぜ医療機関は「対象外」なのか?
現在、日本版DBSの対象となっているのは、学校、保育所、児童養護施設などの「義務対象事業者」と、学習塾やスポーツクラブなどの「認定対象事業者(任意)」です。
ここに「医療機関」が含まれていない主な理由は、「こどもに関わらない従業員も多いこと」などが挙げられます。
しかし、小児科や歯科医院、入院設備のある病院など、こどもと医療従事者が「一対一(密室)」になる場面は日常的に発生します。
読売新聞の報道によれば、こども家庭庁は医療機関約5,000か所へのアンケートや支援団体への聞き取りを通じ、実態調査に乗り出しました。今年度内に報告書をまとめ、制度の対象に加えるかどうかの検討材料にするとのことです。
制度のモデルとなったイギリスのDBSでは、医師らも当然に犯歴確認の対象に含まれています。
日本の制度における「穴」が、法施行前から浮き彫りになりつつあると言えます。
予見されていたリスク:「附帯決議」の中身
「医療機関も対象にすべきではないか」という議論は、実は法律ができる国会審議の段階から強く主張されていました。その証拠が、法案可決時に付された「附帯決議」です。
附帯決議とは、法律を可決する際に、国会の委員会が政府に対して「法の施行に当たっての要望や注意事項」を申し入れるものです。法的拘束力はありませんが、政府はこれを尊重する政治的責任を負います。
衆議院および参議院での附帯決議には、以下のような文言が明確に刻まれています。
【附帯決議 項目四】
ベビーシッターや家庭教師等のこどもを対象とする事業を営む個人事業主、マッチングアプリ経由等による個人契約やフランチャイズ方式も犯罪事実確認等の対象とする仕組みを早急に検討すること。また、医療機関を対象事業とすることについても検討すること。
つまり、国会は「今の法律では医療機関が含まれていないが、リスクがあることは承知している。だから政府は後で検討しなさい」と宿題を出していたのです。
今回のこども家庭庁による実態調査は、この附帯決議に基づいた既定路線の動きであると読み解くことができます。
「3年後の見直し」を待たずに動く可能性も?
こども性暴力防止法には、「施行後3年を目途」とした見直し規定(検討条項)が設けられています。
通常であれば、法改正は施行から数年後に行われるものですが、今回の報道や実態調査のスピード感を見ると、医療機関に関しては前倒しで議論が進む可能性があります。
特に、附帯決議では医療機関だけでなく、「ベビーシッターや家庭教師等の個人事業主」についても対象とするよう求めています。これらは密室性が高く、こどもへの支配性が働きやすい業態です。
医療機関・個人事業主が今から意識すべきこと
まだ法律の対象ではないからといって、対策をしなくて良いわけではありません。
万が一、院内で性被害が発生した場合、経営者は「安全配慮義務違反」や「使用者責任」を問われ、莫大な損害賠償を請求されるリスクがあります。
日本版DBSの認定基準にある「不適切な行為(性暴力につながり得るグレーゾーン行為)」への対策は、医療現場でもそのまま応用可能です。
- 診察時のルール化:こどもと二人きりにならず、必ず看護師や保護者を同席させる。
- 死角の解消:処置室のカーテンを開けておく、防犯カメラを設置する。
- 通報窓口の設置:患者やスタッフが違和感を相談できる窓口を設ける。
「うちは法律の対象外だから」と高を括っていると、世論の厳格化と法改正の波に飲み込まれることになります。今回の調査報道は、医療業界に対する「警鐘」と捉えるべきでしょう。
