2024年6月に「こども性暴力防止法(通称:日本版DBS法)」が成立し、2026年12月25日の施行に向けた準備が本格化しています。
最近、ニュースやインターネットでよく目にするようになった「DBS」という言葉。
「DBSとは一体何の略なのか?」
「なぜ日本でも導入されるのか?」
そんな疑問をお持ちの学習塾やスポーツクラブ、保育施設などの経営者・人事担当者の方も多いのではないでしょうか。
本記事では、日本版DBSの導入支援を専門とする行政書士の視点から、DBSの定義や発祥、そして日本版と本家イギリス版との違いについてわかりやすく解説します。
DBSとは?(何の略称・意味・発祥)
まずは「DBS」という言葉の基本から整理していきましょう。
DBSは何の略?
DBSとは、Disclosure and Barring Service(ディスクロージャー・アンド・バーリング・サービス)の頭文字を取った略称です。 日本語に訳すと「前歴開示・就業制限機構」となります。
- Disclosure(ディスクロージャー):犯罪歴の開示
- Barring(バーリング):子どもに接する仕事への就業制限(排除)
つまり、こどもと接する職場で働く人に性犯罪歴がないかをチェックし、子どもたちの安全を守るための仕組みを指します。
DBS制度の発祥はイギリス
この制度のモデルとなったのは、イギリス(イングランドおよびウェールズ)の制度です。
イギリスでは2002年、学校の管理人が児童を殺害するという凄惨な事件(ソーハム事件)が発生しました。この事件を契機に、警察間の情報共有の欠如が問題視され、2012年に現在のDBSという公的機関が誕生。厳格な審査体制が構築されました。
日本でも近年、教員や保育士によるこどもへのわいせつ事案が後を絶たないことから、同様のスクリーニング機能として「日本版DBS」が創設されることになったのです。
日本版DBSとイギリス版の決定的な5つの違い
日本版DBSはイギリスをモデルにしていますが、日本の法制度や憲法との兼ね合いから、独自の設計がなされています。事業者が知っておくべき相違点は以下の5つです。
違い①:照会できる「犯罪の種類」
チェックの対象となる犯罪の範囲に大きな差があります。
- イギリス版DBS
非常に広範囲です。性犯罪に限らず、暴力、薬物、窃盗、詐欺など、全般的な犯罪歴が照会対象となります。 - 日本版DBS
特定性犯罪に限定されています。具体的には、不同意性交、不同意わいせつ、児童ポルノ禁止法違反などの刑法犯に加え、痴漢や盗撮といった条例違反が含まれます。
日本版DBSでは「問題なし」と判定されても、それは「性犯罪歴がない」というだけの証明であり、暴力や窃盗などの前科がないことを保証するものではありません。
採用時には、引き続き面接やリファレンスチェック等で人物を見定める必要があります。
違い②:開示される情報の「深さ」(警察情報の扱い)
有罪判決に至らない情報の扱いも異なります。
- イギリス(DBS)
こどもに関わる職務の「強化チェック(Enhanced check)」では、有罪判決だけでなく、警察が保有する情報(逮捕歴や不起訴事案など)も、警察署長が必要と判断すれば開示される場合があります。 - 日本版DBS
原則として、有罪判決が確定した前科のみが対象です。示談による不起訴や、前歴(捜査対象になっただけの情報)は照会しても「なし」と判定されます。
いわゆる「初犯」や、過去に示談で済ませているケースは網をすり抜ける可能性があります。DBSの結果を過信せず、密室を作らない環境整備などの物理的な対策を併用することが重要です。
違い③:情報の照会可能期間
犯罪歴をいつまで遡れるかという期間設定も異なります。
- イギリス(DBS)
重大な性犯罪などは「一生涯」にわたって開示され続けます。 - 日本版DBS
刑の種類に応じて期間が区切られています。
拘禁刑(懲役・禁錮):刑の終了後 20年間
罰金刑・執行猶予:刑の確定または終了後 10年間
日本では更生の観点から、20年以上前の重罪については確認できない仕組みであることを理解しておく必要があります。
違い④:守られる対象(こどもか、大人もか)
- イギリス(DBS)
こどもだけでなく、介護や医療を必要とする「脆弱な成人(Vulnerable Adults)」も保護の対象です。 - 日本版DBS
対象は「18歳未満の児童等」に限られます。
違い⑤:制度への参加義務(義務か、任意か)
これが民間事業者様にとって最も実務的な違いです。
- イギリス(DBS)
こどもと頻繁に接する「規制対象活動」を行う場合、チェックが法的に義務付けられています。 - 日本版DBS
二階建て構造になっています。
1. 義務対象(学校、認可保育所等):性犯罪歴の確認が法律上の義務です。
2. 認定対象(学習塾、スポーツクラブ等):義務ではありませんが、国の認定を受けることでDBSを利用できるようになります。
認定対象となる民間事業者の条件
日本では、学習塾やスポーツクラブなどの民間事業者がDBSを利用するためには、こども家庭庁の認定(認定事業者)を受ける必要があります。認定には主に以下の要件(規模・継続性など)が必要です。
- 対面で接する業務であること
- 特定の場所(自宅以外)で行われること
- 従事者が3人以上であること
- 6ヶ月以上の期間中に、同じ子どもが2回以上参加できること
また、認定を受けた事業者には、犯歴の確認だけでなく「研修の実施」や「相談体制の整備」といった安全確保措置も義務付けられます。
事業者が今から準備すべき3つの法的備え
2026年12月の施行に向けて、事業者が着手すべきアクションは以下の通りです。
認定を受けるかどうかの経営判断
認定を受ければ「こまもろうマーク」を表示でき、保護者への大きな信頼材料となります。一方で、認定を受けない場合は、競合他社と比較された際に安全管理体制を問われるリスクがあります。
就業規則や採用フローの見直し
DBSは現職者も対象となります。もし犯歴が見つかった場合の「配置転換」や「雇用継続の判断」は、極めてデリケートな労務問題です。 ※当事務所では、提携する社会保険労務士と連携し、リスクのない規程整備をサポートしています。
情報管理体制の構築
犯歴情報は極めて機微な個人情報です。漏洩には「1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金」という厳しい罰則(法第45条)が科せられます。情報管理規程の策定は必須となります。
- 日本版DBSで、過去の暴力事件や窃盗の履歴もわかりますか?
-
いいえ、わかりません。日本版DBSの照会対象は、不同意性交等罪や児童ポルノ禁止法違反、条例違反(痴漢・盗撮)などの「特定性犯罪」に限定されています。暴行罪や窃盗罪などの前科は照会結果には含まれないため、採用時の面接やリファレンスチェックなど、従来の選考プロセスも引き続き重要です。
- 個人の家庭教師やベビーシッターも、この制度(認定)を利用できますか?
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現時点の制度設計では、個人事業主は認定の対象外となっています。認定を受けるための要件の一つに「こどもに教える者が3人以上であること」という規模要件があるためです。ただし、今後の運用や法改正により対象が拡大される可能性もあるため、最新の動向を注視する必要があります。
まとめ:制度の限界を知り、独自の安全管理を
日本版DBSは画期的な制度ではありすが、イギリス版と比較すると「対象犯罪の限定」や「不起訴情報の不開示」など、一定の制約があることも事実です。
「DBSを導入したから100%安心」ではなく、制度でカバーしきれないリスクを、防犯カメラの設置や複数スタッフによる対応といったハード・ソフト両面で補うことが、こどもたちと貴社のブランドを守る鍵となります。
制度開始に備え、まずは「自社が認定を受けられるか」の診断から始めませんか?
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