フリーランスと企業の取引をめぐる相談が増えています。
「フリーランス保護新法」と「下請法」は、どちらも弱い立場に置かれやすい受託者を守るためのルールですが、適用条件や義務の置き方に確かなちがいがあります。
本稿では、行政書士として現場での問い合わせに答えてきた観点から、2025年時点の最新情報で“実務に使える”比較をお届けします。
法律の正式名・施行日・所管と呼び方の統一
まず法律の名称を確認しましょう。
- 特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(以下、フリーランス保護新法)
2024年11月1日施行。運用は公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省の連携。 - 下請代金支払遅延等防止法(以下、下請法)
2026年1月1日以降は「中小受託取引適正化法(略称:取適法)」へ改称予定。
本文では「下請法(2026年以降は『取適法』)」と表記します。
目的と適用範囲のちがい(資本金要件の有無がカギ)
最大の違いは資本金要件です。
- フリーランス保護新法:資本金規模は不問。個人・小規模事業者への発注でも対象になり得ます。
- 下請法:原則として発注者(親事業者)の資本金規模に応じて適用の可否が決まります。
「うちは小さい会社だから関係ない」は、フリーランス保護新法では通用しません。
対象取引の整理(製造・情報成果物・役務提供・修理)
両法とも、対象となる委託はおおむね次の四類型で共通します。
- 製造委託(加工を含む)
- 情報成果物の作成委託(デザイン、原稿、プログラム等)
- 役務提供委託(撮影、翻訳、コンサル、講師、運用代行など)
- 修理委託
フリーランス保護新法の「発注者の義務」—9つの明示事項と7つの禁止行為
口頭のみの明示は不可。
書面(メール・チャット等の電磁的方法を含む)で、少なくとも以下9項目を明示します。
- 給付の内容
- 報酬額
- 支払期日
- 発注者・受託者の名称
- 委託日
- 役務の受領日/場所
- 検査完了日
- 現金以外で支払う場合の必要事項
- その他政令で定める事項
加えて、次の7つの禁止行為に該当する行為をしてはなりません。
- 受領拒否
- 報酬の減額
- 返品
- 買いたたき
- 不当な経済上の利益の提供要請
- 支払遅延
- 不当なやり直し要請・その他の不利益取り扱い
さらに、募集情報の的確表示、育児・介護と業務の両立への配慮、ハラスメント相談体制の整備も義務付け。
支払期日の設定と期限内支払は最重要の基本動作です。
下請法(取適法)の基本義務
下請法でも、書面交付や受領拒否・減額・返品等の禁止は共通します。
ただし、適用は親事業者の資本金規模に左右されます。
2026年1月から「中小受託取引適正化法(取適法)」へ改称されますが、「下請取引の適正化」という骨格は維持される見込みです。
比較表
| 項目 | フリーランス保護新法 | 下請法(2026年1月〜は取適法) |
|---|---|---|
| 目的 | 事業者間取引の適正化とフリーランスの就業環境確保 | 親事業者と下請事業者の取引適正化 |
| 対象当事者 | 事業として委託を受ける特定受託事業者(個人・法人) | 親事業者/下請事業者 |
| 対象取引 | 製造/情報成果物作成/役務提供/修理 | 同左 |
| 発注者要件 | 資本金要件なし | 資本金規模で適用判断 |
| 明示義務 | 書面(電磁的方法可)で9項目明示、口頭のみNG | 書面交付義務あり |
| 支払期日 | 期日設定と期限内支払義務 | 期限内支払義務 |
| 禁止行為 | 7つの禁止行為(受領拒否・減額・返品・買いたたき 等) | 同種の禁止行為あり |
| 所管・相談先 | 公取委/中小企業庁/厚労省の連携 | 公取委中心(中小企業庁等と連携) |
実務チェックリスト|発注側/受託側
発注側(企業・個人事業主)
- 見積・注文・仕様・納期・検収・支払期日が一連の書面で残っている
- 上記9項目が過不足なく記載され、チャット指示もPDF等で保存
- 報酬額の変更や追加作業は都度合意(メール合意でも可)
- 募集要項は事実と相違なし(報酬・納期・成果物の範囲)
- 支払期日を必ず明記し、遅延防止の承認フローが機能している
- ハラスメント相談窓口を明示、相談ルートが稼働
- 育児・介護配慮(納期の幅・オンライン対応 等)の記録を残す
受託側(フリーランス)
- 口頭依頼のみで着手しない。書面を求める
- 検収完了日と支払期日の記載を確認
- 減額・やり直し要請の根拠を契約と指示書で突き合わせる
- 連絡手段は1チャネルに集約しログ保全(メール/ツール)
- 不利益が生じたら、案件名・日時・相手・発言・証拠を時系列メモ
行政運用の最新トピックと相談先
施行1年の節目として、厚生労働省が就業環境整備のチェックポイント(ハラスメント体制・両立配慮など)を公開しています。https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/bunya/freelance_00006.html
実務ではこのチェックリストを、発注側の社内規程や募集テンプレートの見直しに活用してください。
相談は、公正取引委員会の特設ページ、中小企業庁(下請かけこみ寺等)、厚生労働省の相談窓口が入り口になります。
まとめ|まずは「書面化」と「支払期日」から
二法は似ていますが、資本金要件の有無と書面明示の徹底が分かれ目です。
まずは全取引の書面化、支払期日の明確化と厳守、禁止行為に触れない運用フローを整えることです。
迷ったら早めに専門家へご相談ください。
(注)2026年1月施行予定:下請法→中小受託取引適正化法(取適法)。名称が変わっても、取引適正化の趣旨は継続します。
