2026年、子供向けビジネスの「ルール」が激変します。
「日本版DBS」という言葉、最近ニュースで耳にすることが増えたのではないでしょうか。 正式には「こども性暴力防止法(学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律)」という、非常に長い名前の法律です。
「ああ、性犯罪歴を確認する制度でしょ? うちは個人の小さなピアノ教室だから関係ないよ」
「認定制度は『任意』って聞いたから、面倒だし様子見でいいかな」
もし、経営者であるあなたが今、少しでもそう思っているとしたら……。
その判断は、数年後にあなたの事業を「廃業」に追い込む致命的なミスになるかもしれません。
脅すつもりはありません。しかし、行政書士として法律の構造と行政の動きを分析すればするほど、この制度は
「取れるなら取っておかないと、市場から退場させられる」
という性質のものだという見方もあります。
このブログを通じて、なぜこの制度があなたの事業の「生命線」になるのか、そして具体的に何をどう準備すればいいのかを、法律用語を極力使わずに、徹底的にわかりやすく解説していきます。
今回は、「そもそも日本版DBSとは何か?」そして「なぜ『任意』なのに『必須』と言えるのか?」という、経営判断の根幹部分についてお話しします。
日本版DBSは、子供たちの「シートベルト」です
まず、法律の中身をざっくりとイメージで掴んでいただきましょう。
日本版DBS法は、子供たちを性犯罪という「事故」から守るための、社会全体の新しい安全装置です。
車で例えるなら「シートベルト」や「エアバッグ」のようなものだと思ってください。
これまで、日本にはこの「シートベルト」が義務付けられていませんでした。そのため、過去に性犯罪を起こした人が、名前を変えたり場所を変えたりして、再び子供と接する仕事(学校や塾、ベビーシッターなど)に就くことが容易にできてしまっていたのです。 これは、ブレーキの効かない車が通学路を走っているようなものでした。
そこで国は、こう決めました。
「子供と接する仕事に就く人には、過去に性犯罪歴がないかどうか、国に確認することを義務付けよう」
これが日本版DBSの正体です。
具体的には、人を雇う時や、今働いているスタッフに対して、「この人は過去に性犯罪を犯していませんか?」と国に照会をかけ、もし「クロ(犯歴あり)」と出たら、子供と接する業務には就かせないという仕組みです。
この法律の目的はただ一つ。
「子供たちの心と体に、一生消えない傷を負わせることを防ぐ」
これ以上に優先されるべき利益はない、という強い意志で作られた法律なのです。
「任意」という言葉に隠された罠 ~市場から選別される恐怖~
さて、ここからが経営者であるあなたにとっての最重要ポイントです。
この法律は、対象となる事業者を大きく2つに分けています。
- 学校など(義務対象): 小学校、中学校、幼稚園、保育所など。これらは導入が「義務」です。やらないと法律違反です。
- 民間事業者(認定対象): 学習塾、スポーツクラブ、スイミングスクール、放課後児童クラブなど。これらは導入が「任意(やりたいところが手を挙げて認定を受ける)」となっています。
ここを読んで、「なんだ、うちは学習塾だから『任意』か。なら、コストも手間もかかるし、やらなくていいや」と安心しませんでしたか?
ここが最大の落とし穴です。
なぜなら、国は認定を受けた事業者に対して、「内閣総理大臣認定」というお墨付き(認定マーク)を与え、それを広告や看板に掲げることを許可するからです。
想像してみてください。
あなたの教室(A教室)と、ライバルの教室(B教室)が、同じ駅前に並んでいます。月謝もカリキュラムもほぼ同じです。 しかし、ライバルのB教室の入り口やホームページには、こんなマークが貼られています。
【内閣総理大臣認定:こども性暴力防止措置 実施事業所】 (※あくまでイメージです)
一方、あなたの教室にはそれがありません。
さて、大切なわが子を通わせる保護者は、AとB、どちらの教室を選ぶでしょうか? 昨今、保育園や学校での性被害のニュースが連日報道され、保護者の「安全」に対する意識はかつてないほど高まっています。 そんな中で、「国が認めた安全対策をしている教室」と「対策しているかわからない(認定を取っていない)教室」。
勝負は、体験入会の申し込みが来る前に決まってしまいます。
つまり、法律上は「任意(やらなくても罰則はない)」ですが、ビジネスの現場(市場)においては「事実上の義務(やらないと選ばれない)」と言えるのではないでしょうか。
これが、私が「認定取得は事業の生命線だ」と申し上げる理由です。
認定を取らないことは、法律違反にはなりませんが、「保護者からの信頼」というビジネスで最も大切な資産を失うことと同義なのです。
あなたの事業は「認定対象」ですか? ~意外と広い網~
「うちは個人経営だし、そこまで大袈裟なものじゃないよ」 そう思っている方も多いかもしれません。
しかし、この法律の網は、あなたが思っている以上に広く設定されています。
以下の条件に当てはまる事業は、すべて認定の対象となる可能性があります。
【対象となる業種の例】
- 学習塾、進学塾、補習塾
- スポーツ教室(水泳、サッカー、野球、テニス、ダンスなど)
- 文化教室(ピアノ、英会話、絵画、プログラミングなど)
- 認可外保育施設、ベビーシッター
- 放課後児童クラブ(学童保育)
- インターナショナルスクール
【認定を受けるための主な要件】 業種だけでなく、以下の規模や形態の条件もクリアする必要があります。
- 期間: 6ヶ月以上の期間にわたって継続して行われるもの。(夏期講習だけの短期イベントなどは対象外の可能性が高いですが、通年クラスがあれば対象です)
- 人数: 実際に指導にあたる人(保育士や講師など)の数が、3人以上であること。(※今後2年以内に3人以上になる見込みがある場合も含みます)
- 形態: 子供と対面して指導等を行うもの。(完全オンラインの塾は対象外です)
- 場所: 子供の自宅以外の場所で行うもの。(家庭教師は原則対象外ですが、教室に通わせる形なら対象です)

特に注意が必要なのは「3人以上」という数字です。
「うちは私(代表)一人で教えているから関係ない」と思っていても、アルバイトの大学生を2人雇っていたら、もう「3人」です。事務スタッフはカウントしませんが、子供と接する指導員やコーチは全員カウントされます。
つまり、「街の小さな学習塾」や「地域のスポーツ少年団」であっても、人を雇って運営している限り、この制度の対象になり得るのです。
今すぐ決断しなければならない理由
この法律(改正法)がスタートするのは、令和8年(2026年)12月25日です。
「もう1年しかない」のです。
なぜなら、認定を受けるためには、単に申請書を出すだけでなく、社内の「仕組み」を根本から変える必要があるからです。
- 就業規則を変えなければなりません。
- 「もし犯歴が見つかったらどうするか?」という重いルールを決めなければなりません。
- 何より大変なのは、「今働いている従業員全員」のチェックもしなければならないという点です。
長年働いてくれているベテラン講師に、「法律が変わったので、あなたの過去の性犯罪歴を調べさせてください。戸籍を出してください」とお願いする。 これは、信頼関係に関わる非常にデリケートな問題です。説明を間違えれば、従業員が辞めてしまうリスクすらあります。
制度が始まってから慌てて準備しても、間に合いません。 ライバルたちは、すでに準備を始めているかもしれません。制度開始と同時に「認定マーク」を掲げるために今から就業規則を見直し、従業員への説明を始めているのです。
まとめ:最初のステップは「知ること」と「決めること」
今回は、日本版DBSの概要と、ビジネスにおける必要性についてお話ししました。
今日のポイント
- 日本版DBSは、子供を守るための「シートベルト」。
- 法律上は「任意」でも、取らなければ保護者に選ばれなくなる「事実上の義務」。
- 小さな塾や教室でも、スタッフが3人いれば対象になる。
- 準備には時間がかかる。今すぐ動き出さないと間に合わない。
「認定を取りたいけれど、何から始めればいいかわからない」
「スタッフにどう説明すればいいのか悩む」
「うちは対象になるのか、正確に知りたい」
そう思われた方は、ぜひ次回の記事もお読みください。
あなたの事業を守るための準備は、今日から始まっています。
まずは、「うちは認定を取るんだ」という経営的な意思決定をすること。そこからすべてが動き出します。
制度の解説だけでなく、私がなぜここまで日本版DBSに情熱を注いでいるのか、その「原点」と「決意」を綴りました。ぜひ一度お読みいただければ幸いです。

日本版DBSの導入について、少しでも不安があればご相談ください。
まずは現状の整理からお手伝いします。
