「性犯罪歴の確認といっても、ウチのスタッフにそんな凶悪犯罪者はいないから大丈夫」
日本版DBS(こども性暴力防止法)の導入を検討されている経営者様から、このような声をよくお聞きします。 しかし、この制度で照会対象となる「特定性犯罪」の範囲は、皆様がイメージされているよりもはるかに広く設定されています。
「強制わいせつ」や「不同意性交」といった刑法犯だけではありません。 通勤電車での痴漢や、エスカレーターでの盗撮など、都道府県の「迷惑防止条例違反」もチェックの対象となることをご存知でしょうか?
本日は、意外と知られていない「対象となる犯罪の範囲(特定性犯罪)」について、最新の法令・ガイドラインに基づき解説します。


※本記事は2025年11月21日時点の政府公表資料(中間とりまとめ案等)に基づいています。
法律が定める「特定性犯罪」の定義とは
日本版DBS法では、確認の対象となる「特定性犯罪」を以下の6つのカテゴリーに分類しています(法第2条第7項)。
- 刑法犯(不同意わいせつ、不同意性交等)
- 盗犯等防止法違反(性犯罪を伴う強盗等)
- 児童福祉法違反(淫行させる行為)
- 児童ポルノ法違反(児童買春、児童ポルノ所持・提供等)
- 撮影処罰法違反(性的姿態の撮影=盗撮など)
- 都道府県の条例違反(痴漢、盗撮、のぞき見など)


特に注意が必要なのが、5番目の「撮影処罰法(令和5年施行)」と、6番目の「都道府県の条例違反」です。
なぜ「条例違反」まで含まれるのか?
「痴漢や盗撮は、性交等を伴う犯罪に比べれば軽微ではないか?」という議論もかつてはありました。 しかし、国(こども家庭庁)の議論では、以下の理由からこれらも対象に含めるべきと結論づけられました。
- 性的な欲求を満たすための加害行為である点に変わりはないこと
- 盗撮などの行為がエスカレートし、より重大な性犯罪につながるリスクがあること
- こどもの心身に与える悪影響や恐怖は計り知れないこと
具体的には、各都道府県の「迷惑防止条例」や「青少年健全育成条例」で禁止されている以下の行為が対象となります。
- みだりに身体に触れる行為(痴漢)
- 下着や身体を盗撮・のぞき見する行為
- 卑わいな言動(言葉によるセクハラ等)
- 18歳未満への淫行
つまり、過去に「出来心で」盗撮をして検挙され、罰金刑を受けたスタッフがいた場合、日本版DBSの照会によって「犯歴あり」という結果が返ってくることになります。
「知らなかった」では済まされない経営リスク
この事実は、事業者にとって非常に重い意味を持ちます。
もし、貴社のスタッフに条例違反の前歴があり、それを知らずに(または確認せずに)こどもと接する業務に従事させていた場合、万が一再犯が起きた時の社会的責任は免れません。 「凶悪犯ではないから」という言い訳は、保護者には通用しないのです。
だからこそ、認定事業者は「すべての従事者」に対して、この広い範囲での犯罪歴がないかを確認する義務を負うのです。
認定取得に向けて整備すべき「規程」
では、事業者は具体的にどう準備すればよいのでしょうか?
行政書士として、以下の2点のアクションを提案します。
① 「児童対象性暴力等防止規程」の策定
認定申請に必須となる内部規程(防止規程)において、「何が許されない行為なのか(禁止行為)」を定義する際、刑法犯だけでなく条例違反や撮影処罰法違反も含めた広範な定義を盛り込む必要があります。 これは従業員への周知・教育の基礎となる重要なルールブックです。
② 就業規則(懲戒事由)の見直し【重要】
就業規則の懲戒事由において、単に「性犯罪を行ったら解雇」とするのではなく、「日本版DBS法が定める特定性犯罪(条例違反を含む)に該当する行為を行った場合」と具体的に明記しておくことが、リスク管理上極めて重要です。
まとめ:リスクの「解像度」を上げよう
- 日本版DBSは、痴漢・盗撮などの「条例違反」も照会対象。
- 「軽微な犯罪」という認識は捨て、リスクを正しく認識する。
- 社内ルール(防止規程・就業規則)で、対象となる行為を明確化する。
「うちは大丈夫」という安心感は、正しい知識の上にこそ成り立ちます。 制度開始まであと1年。今のうちに社内規定を見直し、隙のない安全管理体制を構築しましょう。
当事務所では、貴社の現状に合わせた「児童対象性暴力等対処規程」の作成や、認定取得に向けたコンサルティングを行っております。 「ウチの規定、条例違反までカバーできているかな?」とご不安な経営者様は、ぜひ一度ご相談ください。
