【民間事業者・全業種】日本版DBS、「民間は任意」という条文の罠。認定取得が「実質義務」と言い切れる3つの根拠

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2026年12月施行の「日本版DBS(こども性暴力防止法)」。 法律の条文(第19条)を見ると、学習塾やスポーツクラブなどの民間事業者は、認定を「受けることができる」と書かれています。

「義務」ではなく「できる(任意)」ならば、手間もコストもかかるし、しばらく様子見でいいか——。

そう考えられている経営者様も多いかもしれません。しかし、行政書士として制度全体やガイドラインを精査すると、この「任意」という言葉には大きな落とし穴があるように思えてきます。

法的には「任意」であっても、ビジネスの実務上は「取得しないという選択肢が事実上消滅する」可能性が高いのです。今回は、法律の専門家としての視点から、認定取得が「実質義務」と言える3つの根拠について解説します。

目次

根拠①:合法的に「安全確認」を行う唯一の手段だから

まず、法律論以前の前提として、子供を預かる事業者には「安全配慮義務」があります。万が一、講師が子供にわいせつ行為をした場合、経営者は「予見できたか」「回避措置をとったか」を厳しく問われます。

しかし、日本版DBSの制度を使わずに、独自に応募者の前科を調べることはできるでしょうか?

答えは「No」です。

  • プライバシーの侵害: 採用面接で「性犯罪歴はありますか?」と聞くことは可能ですが、虚偽の回答をされたら確認のしようがありません。
  • 個人情報保護法: 犯罪歴は「要配慮個人情報」であり、本人の同意なしに第三者(警察など)から取得することは違法です。

つまり、日本版DBSの認定を受けない限り、民間教育保育等事業者(塾・教室・クラブ等)は「講師の過去をチェックする手段を持たない(リスクを抱えたまま経営する)」状態が続きます。「国が用意した唯一の安全確認ルート」を使わずに事故が起きた場合、その法的責任(賠償責任)は、制度利用時よりも遥かに重くなるでしょう。

根拠②:認定制度による「表示の独占」と市場原理

本法律では、認定を受けた事業者だけが「(仮)日本版DBS認定事業者」といった表示や広告(認定マークの使用等)を行うことができます。

これは逆に言えば、認定を受けていない事業者は、HPやチラシで「うちは安全です」「全講師のチェック済みです」と謳えなくなることを意味します(もし謳えば、景品表示法上の優良誤認や虚偽表示のリスクが生じます)。

2026年末以降、保護者が塾やスクールを選ぶ基準は以下のように変わるでしょう。

  • A教室: 「(仮)日本版DBS認定事業者」のマークがある。
  • B教室: マークがない(=性犯罪歴の確認をしていない可能性がある)。

同じ月謝、同じカリキュラムなら、保護者はどちらを選ぶでしょうか?
法律で強制されなくても、「市場(保護者の目)」が認定取得を強制する流れになることは明らかです。

根拠③:行政の「お墨付き」を得るハードルの高さそのものが価値

「認定」とは、単なる届出ではありません。国(こども家庭庁)が定めた厳しい基準をクリアした事業者だけに与えられる「行政処分」の一種です。

  • 体制整備: 犯歴データという機密情報を扱えるだけの、物理的・技術的な管理体制があるか。
  • 規程整備: 「児童対象性暴力等防止規程」等の社内ルールが法的要件を満たしているか。
  • 欠格事由: 役員自身に問題がないか。

これらをクリアして認定を勝ち取ることは、いわば「行政審査をパスできるだけのガバナンス能力がある」という証明になります。 個人経営の教室であっても、認定を取得していれば、大手チェーンと対等、あるいはそれ以上の「信頼」を公的に証明できるのです。

まとめ:手続きは「書類一枚」では終わらない

「任意だから」と後回しにすることは、これら3つのメリット(リスク回避、集客優位、社会的信用)をすべて捨てることと同義です。

しかし、ここで一つ重要な警告があります。
国の認定を受けるための申請手続きは、読者のみなさんが思うほど簡単ではありません。

  • 定款や登記簿の整合性チェック
  • 情報漏洩を防ぐための厳格な管理規定の作成
  • 従業員への説明と同意取り付けのフロー整備

これらは、思いつきで申請書を出せば通るものではなく、事前の入念な「体制整備」が必要です。

次回は、認定申請にあたって具体的にどのような「書類」や「管理体制」が求められるのか。
行政手続きのプロの視点から、実務のリアルな壁について解説します。

本記事の法令根拠と情報の取扱いについて

本記事で解説した内容は、現行の「学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律」(法令)、およびこども家庭庁が公表している「こども性暴力防止法施行準備検討会 中間とりまとめ」の情報に基づき構成しています。

現時点で明確になっている骨格情報に基づき解説していますが、制度の詳細、具体的な申請手順、情報管理措置の細目、および雇用管理上の詳細な留意点等については、今後策定される予定の内閣府令等の下位法令やガイドライン、そして年明けから本格化する全国説明会などの周知資料において明確化されることになります。

最新かつ詳細な情報については、必ずこども家庭庁のウェブサイトや今後公表される正式なガイドライン等をご確認ください

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