「認定制度が始まったら、すぐに申請して認定事業者マーク(こまもろう)をもらおう」
「うちの講師に前歴がないことだけ確認できればあとは何とかなるでしょ?」
もしそうお考えだとしたら、もう少し慎重に考えたほうがいいかもしれません。
実は、日本版DBSの認定申請をする前に、社内・教室内で完了させておかなければならない「重た~い宿題」 がいくつかあるのはご存知でしょうか。
それが、法律で義務付けられている「安全確保措置」です。
これをクリアしないと、そもそも申請の土俵に乗ることができませんので、今回は、認定申請の“前提条件”となるこの「安全確保措置」について解説します。
DBSは「犯歴確認」だけではない!「未然防止」こそが本丸
日本版DBS(こども性暴力防止法)というと、「性犯罪歴のある人を雇わない(再犯防止)」という点ばかりが注目されがちです。 しかし、この制度の真の目的は、「性暴力を未然に防ぎ(初犯防止)、万が一の際も早期に発見・対応できる体制を作ること」 にあります。
なぜなら、「性犯罪歴がない=安全な人」とは限らないからです。 まだ捕まっていないだけの初犯者や、これから加害を行うかもしれない人物による被害を防ぐためには、犯歴チェックだけでは不十分なのです。
そのため、国は認定事業者に対し、以下の4つの措置(安全確保措置) を講じることを義務付けています。
- 早期把握 (面談・アンケート・日常観察)
- 相談体制 (窓口の設置・周知)
- 研修 (全スタッフへの実施)
- 保護・支援・調査 (被害が疑われる場合の対応)
これらは、「認定を受けた後にやればいい」ものではありません。
「これらの体制が整っていること」を申請時に証明する必要があるため、申請前の「準備期間」に作り込んでおく必要があるのです。
「ガイドライン」と「横断指針」を使い分ける
実務を進める上で、まず整理しておきたいのが、国の資料の使い分けです。
現在、以下の2種類の資料が公開されています。
「こども性暴力防止法施行ガイドライン」
認定事業者が「必ず守らなければならない最低基準(法的義務)」が書かれています。
まずはここをクリアすることが認定の必須条件です。
「横断指針(教育・保育等を提供する事業者による児童対象性暴力等の防止等の取組を横断的に促進するための指針)」
より具体的な「実務のヒントや推奨事項」が書かれています。
ガイドラインの基準をどう満たすか迷った時の“参考書”として活用します。
以下、ガイドラインで求められる「義務」を中心に、横断指針で「具体策」を補足する形で、4つの措置を解説します。
申請前に片付けるべき「4つの措置」
【早期把握】「様子がおかしい」を見逃さない仕組み
「何かあったら言ってね」と待っているだけでは不十分です。
事業者は、能動的にリスクを把握する義務があります。
- 【義務】日常観察
スタッフが日頃からこどもの様子を観察し、変化に気づけるようにします。 - 【義務】定期的な面談・アンケート
児童等の発達段階や事業の特性に応じ、定期的に(少なくとも年に1回)実施する必要があります。 - 【参考(横断指針)】何を見ればいい?
横断指針には、「急に無口になる」「着替えを嫌がる」「特定の大人を極端に避ける(または距離が近すぎる)」といった具体的なサインの例が示されています。これらをスタッフに周知することが有効です。
【相談体制】「逃げ場」を用意する
こどもや保護者が相談しやすい環境を整える必要があります。
- 【義務】内部窓口の設置
教室内に相談員を選任するか、相談窓口(メールフォーム等でも可)を設置します。 - 【義務】外部窓口の周知
ここが重要です。自社の窓口だけでなく、国や自治体の相談窓口(「こどもの人権110番」など)も併せて周知しなければなりません。これは、「先生には言えないこと」を相談できるようにするためです。
【研修】「動画を見るだけ」ではNG?
対象となるスタッフ(アルバイト・ボランティア含む)に対し、業務に就く前に研修を受講させることが義務付けられます。
- 【義務】研修内容
性暴力の定義、こどもの権利、グルーミング(手なずけ行為)の手口、情報管理の重要性など。 - 【義務】研修方法
単なる座学(動画視聴など)だけでなく、「演習(ロールプレイングやディスカッション)」を組み合わせること が必須とされています。
例:「同僚がこどもと密室にいたらどう声をかけるか?」「こどもから相談されたらどう答えるか?」などをシミュレーションします。
【保護・支援・調査】「もしも」の時のマニュアル作り
疑わしい事案が発生した際に、誰がどう動くかを決めた「児童対象性暴力等対処規程」を作成しておく必要があります。
- 【義務】調査
事実確認の方法(誰が聴き取りをするか、公平性をどう保つか等)。 - 【義務】保護
被害児童と加害疑いのあるスタッフを接触させない(引き離す)措置。
まず着手すべきは「ギャップ分析」
「今のウチの教室で、これらがどれくらいできているだろうか?」
まずは、自教室・クラブの現状とガイドラインの要件を照らし合わせる「ギャップ分析(現状の棚卸し)」から始めましょう。
- 面談やアンケートは定期的にやっているか?(やっていないなら、いつやるか?)
- 就業規則や服務規律に「性暴力の禁止」や「不適切な行為(私的なSNS交換など)」の禁止は明記されているか?
- スタッフ研修に「演習」は組み込まれているか?
これらが不足している部分(ギャップ)を埋めていく作業こそが、認定取得に向けた準備そのものです。
まとめ:安全対策は「点」ではなく「線」で考える
今回のポイントをまとめます。
- 日本版DBSは「犯歴確認」だけでなく、「4つの安全確保措置(早期把握・相談・研修・保護支援)」が認定の必須条件。
- 「ガイドライン」の義務を守りつつ、迷ったら「横断指針」を参考にする。
- 申請直前に慌てないために、まずは現状とのギャップを知ることから始める。
次回からは、この「4つの措置」を具体的にどうこなしていくか、一つずつ深掘りして解説します。
まずは、多くの事業者が悩む「早期把握(面談・アンケート)と相談窓口」の実践的な作り方にフォーカスしていきます。
