前回(第7回)、研修を通じてスタッフ一人ひとりの意識を高め、性暴力を生まない環境をつくるために、単に研修動画を視聴させるだけでなく、具体的な場面を想定した「演習」を組み合わせた研修を受講させることが必須条件となることについて解説をいたしました。

今回は、教室やクラブにおける「こどもを守るためのルールブック」であり、万が一の事態が起きた際、組織が法に則って迷わず動くための行動指針となる「児童対象性暴力等対処規程」について解説していきます。
これは認定申請において必ず作成し、提出しなければならない非常に重要な書類です。
多くの事業主様が「雛形を少し直せばいいだろう」と考えがちですが、認定取得後の「実効性」を左右する最重要ポイントなのです。なぜ、独自の作り込みが必要なのか? ガイドラインが求める必須要件を深掘りします。
実施体制の構築:チーム対応と役割分担
まず定めるべきことは、誰が責任を持って対応するのかという組織的な実施体制です。
日本版DBSでは、一人のスタッフに重い責任を負わせるのではなく、「チームによる対応」が義務付けられています。規程内には、以下のような具体的な役割分担を明文化する必要があります。
| ポジション | 役割 |
|---|---|
| チーム長 | 全体指揮と最終的な意思決定を行う責任者 |
| 被害児童・保護者担当 | 被害側に寄り添い、支援情報の提供や連絡調整を行う |
| 加害疑いのある者担当 | 加害側への事実確認やヒアリングを公正・中立に行う |
| 外部連携担当 | 警察や自治体、弁護士等の専門家との窓口となる |
このように「事実確認を行う者」と「被害児童をケアする者」を分けるなど、客観性と公平性を担保した組織設計を行うことが、規程を機能させるための土台となります。
実務フロー:規程に必須の「3つの柱」
規程のメインとなるのが、事案が発生した際の具体的な動き方です。
国のガイドラインでは、以下の「3つの柱」を盛り込むことが必須要件とされています。
調査(事実確認)
疑いが生じた際、いかに些細な情報でも真摯に受け止め、迅速に事実関係を確認するプロセスを定めます。
防止措置
犯歴確認の結果や調査の結果に基づき、性暴力の「おそれ」があると判断される場合に、対象者を業務から外す等の措置を定めます。
保護・支援
被害を受けたこどもの心身の安全を確保し、日常を取り戻せるよう、ケアや情報提供を行う措置を定めます。
判断基準:不適切な行為(重大なものを含む)
この3つの柱を動かす際の「判断基準」となるのが、「不適切な行為」の定義です。
「不適切な行為」とは、それ自体は直ちに児童対象性暴力等(性暴力)に該当しなくても、継続・発展することで性暴力につながる恐れがある行為を指します。その範囲は、事業内容やこどもの発達段階、現場の状況によって「何が不適切か」が異なるため、各事業者が業務上の必要性を踏まえて具体的に定めることが求められています。
不適切な行為の範囲設定
「SNSの私的交換」「密室での二人きり」「過度な身体接触」など、ガイドラインの例を参考にしつつ、自社の事業特性(スポーツ指導、学習塾など)に合わせた境界線を引くことが実務上の肝となります。
保育所・幼稚園(未就学児対象)
乳幼児を対象とする現場では、愛着形成や着替え・排せつなどの介助のために身体接触が業務上不可欠です。そのため、不適切な行為の基準は「業務上の必要性」を超えているかどうかが重要になります。
- 不適切な行為の例
必要以上に長時間抱きしめる、一般的ではない抱き方をする、添い寝の際に特定の児童とだけ添い寝をする。 - 工夫・ルールの例
身体接触を伴う介助(着替え、トイレ等)の際は、パーティション等で外から見えないようにしつつ、密室状態を避けるために複数名で対応する。
学習塾・習い事(教室内指導)
一般的に身体接触の必要性が低く、一方で密室で一対一になりやすいという特性があります。
- 不適切な行為の例
児童と私的なSNSアカウントを交換する、個人的なやり取りを行う、授業・レッスン後や休日に私的に会う、不必要に密室で二人きりになろうとする。 - 工夫・ルールの例
面談等で一対一になる場合は、ドアを開放する、窓のある部屋で行う、または管理職や同僚にチャット等でリアルタイムに共有する仕組みを設ける。
スポーツ教室・スイミング・ダンス
指導の過程で、補助やストレッチなどの身体接触が発生しやすい業態です。
- 不適切な行為の例
指導上の必要がないのに胸、腰、でん部等に触れる、マッサージをする。 - 工夫・ルールの例
身体接触が必要な場合は、その都度こどもに必要性を説明し、口頭で同意を得る。マッサージやテーピングを密室で一対一で行わず、他者の目がある場所で実施する。
障害児通所支援・入所施設
身体介助や医療的ケア(導尿、浣腸等)が必要な場合があり、プライバシー保護と安全確保のバランスが極めて重要となります。
- 不適切な行為の例
児童が一人で排せつや着替えをしたい意思を示しているのにわざわざ介助に入る、特段の理由なく特定の児童だけを担当しようとする。 - 工夫・ルールの例
介助の境界線について児童本人と支援者が共通認識を持ち、担当者の定期的なローテーションを行う。
居場所支援・児童福祉施設
家庭環境に課題がある児童等に対し、親身な相談や生活支援を行う中で、依存関係や公私の区別の曖昧さがリスクとなります。
- 不適切な行為の例
勤務時間外に無償で相談に乗る、ポケットマネーで物を買い与える、保護者の承諾なく自宅に招いて二人きりになる。 - 工夫・ルールの例
相談内容や接触の状況を組織的に共有し、特定のスタッフと児童が過度に親密な「二人だけの秘密」を持つ状況を回避する。
「重大な不適切な行為」という新区分
法施行ガイドラインで追加された重要な要素です。執拗な行為や、意に反することを認識しながら行う行為などは、性暴力そのものと同等に重く扱い、「原則として対象業務に従事させない」という厳しい措置を規程に盛り込まなければなりません。
このように、各事業者は自社の業務において「どこまでが正当な指導・ケアであり、どこからがリスクのある行為か」という境界線を明文化し、規程に定めることが認定取得の鍵となります。
まとめ:現場で機能する「生きたルール」を
認定審査をパスするための書類作成は、あくまでスタートラインに過ぎません。
「実施体制(チーム)」を固め、
そのチームが「不適切な行為」という基準に照らして
事案を「調査」し、
結果に基づいて「防止措置」や「支援」を行う――。
この一連の流れが、貴社の組織図や日常の業務フローに完全にフィットしている必要があります。
「自社の実情に合わせた規程の作り込み」こそが、認定取得後の実効性を左右し、ひいては保護者様から「この教室は信頼できる」と選ばれる最大の理由になるのです。
次回(第9回)は、これらのルールを物理的に支えるための「施設・事業所の環境整備」について、死角をなくすための具体的な対策を解説します。

