前回(第14回)は、フランチャイズや派遣など、複雑な契約形態における対応について解説しました。

大きな山を乗り越えても、まだ、息つく暇はありません。認定取得直後に待っているのが、本制度導入における実務上の最大の山場です。それは、「今働いているスタッフ全員の犯歴確認(犯罪事実確認)」です。
新規採用者は入社時に一人ひとり確認すればよいですが、既存スタッフは何十人、何百人といる場合もあり、これを期限内にすべて完了させなければなりません。今回は、認定時に在籍しているスタッフ(認定時現職者)の確認フローと、システムで「確認できない」となった場合の対応、そして「拒否されたらどうする?」という点について解説します。
タイムリミットは「認定から1年」
法律では、認定を受けた時点で雇用しているスタッフ(認定時現職者)について、以下の期限が定められています。
「認定等の日から起算して一年を経過する日までに、その全ての者について、犯罪事実確認を行わなければならない」
つまり、認定日から1年以内に、アルバイトやパートを含む対象業務従事者全員のチェックを完了させなければなりません。もし1年を過ぎて確認ができていないスタッフがいた場合、そのスタッフをこどもと接する業務に従事させ続けることは法律違反(義務違反)となります。
「後でまとめて」は命取り
「1年あるから大丈夫」と思いがちですが、日々の業務と並行して全スタッフのアカウント登録や書類提出を促すのは想像以上に大変です。また、万が一「犯歴あり」の判定が出た場合、配置転換や雇用の調整に時間がかかるため、認定が降りたら直ちに着手し、計画的に進めることを強く推奨します。
現職者確認の具体的ステップ
現職者の確認は、以下の流れで進めます。
ステップ①:事前の周知と説明(最重要)
いきなり「国に照会するから手続きして」と言うと、スタッフは不安になります。
必ず事前に、全スタッフに対して以下の説明を行ってください。
- 教室が日本版DBSの認定を受けたこと。
- 法律に基づき、現職者全員の確認が義務付けられていること。
- 確認の結果、問題がなければそのまま勤務できること。
- プライバシーは厳格に守られること。
ガイドラインでは、トラブル防止のために「書面での事前通知」が求められています。
ステップ②:システムのアカウント作成
スタッフ一人ひとりが、自身のスマートフォン等で「こども性暴力防止法関連システム」のアカウントを作成する必要があります。事業者はシステムからスタッフへ「招待メール」を送り、スタッフはそこから登録を行います。
#11の後半で、従業員側の準備手順を掲載しています。

ステップ③:現職者本人による申請情報の入力・提出
ここが最大のハードルです。スタッフ本人がシステムにログインし、マイナンバーカードを使って本人確認を行い、必要な情報を国に送信します。
「情報不足」が出たら? 戸籍(識別符号)の出番
システム上で照会をかけた際、スムーズに結果が出れば良いのですが、場合によっては「情報不足」や「確認不可」といったステータスになり、追加の手続きが必要になることがあります。
なぜ起きる?
主な原因は、「結婚や離婚による姓の変更」や「本籍地の転籍」です。犯歴データは過去の氏名や本籍地とも紐づけて確認する必要がありますが、マイナンバーカードの基本情報だけでは、過去の氏名のつながり(履歴)が追えない場合があるためです。
対応策:「戸籍電子証明書提供用識別符号」の取得
この場合、スタッフ本人に「戸籍電子証明書提供用識別符号(有効期限3ヶ月)」を取得してもらい、システムに入力してもらう必要があります。これは、「私の戸籍情報はこれです」ということを示すデジタルのパスコードのようなものです。
- 取得方法:マイナンバーカードがあれば、スマホアプリ(デジタル認証アプリ等)経由で、役所に行かずに取得可能です。
- 注意点:マイナンバーカードがない、または古い戸籍(改製原戸籍)が必要な場合は、役所の窓口で紙の謄本を取得し、画像をアップロードする手間が発生します。
現職者に「拒否」されたらどうする?
「プライバシーの侵害だ」「手続きが面倒だ」などの理由で、確認を拒否するスタッフがいた場合、どうすればよいでしょうか?
ガイドラインが示す対応プロセス
ガイドラインでは、正当な理由なく確認に応じない場合、以下の対応が示されています。
- 業務命令
まずは「法律に基づく義務である」と説明し、業務命令として手続きを行うよう指示します。 - 記録化
口頭で拒否された場合は、書面で指導を行い、記録に残します。 - 配置転換
それでも応じない場合は、確認が取れない以上、こどもと接する業務には就かせられません。事務職などへの配置転換を行います。 - 懲戒処分
配置転換も難しい場合や、頑なに業務命令に違反し続ける場合は、就業規則に基づき「懲戒処分」の対象になり得ます。
就業規則の確認と、専門家(社労士・弁護士)との連携
ここで重要になるのが、「就業規則」の記載です。 一般的に、懲戒処分を行うためには、あらかじめ就業規則にその根拠(懲戒事由)が定められ、周知されている必要があります。
こども家庭庁が公開している「就業規則参考例(別紙5)」では、「正当な理由なく、犯罪事実確認の手続等に対応しないとき」を懲戒事由として盛り込む例が示されています。 いざという時にルールが機能するよう、認定申請前の「準備フェーズ」において、ご自身の教室の就業規則が日本版DBSに対応できているかを確認しておくことが不可欠です。
就業規則の具体的な作成・変更手続きや、個別の懲戒処分の有効性判断は、社会保険労務士や弁護士の専門分野です。
行政書士である私からは「ガイドライン上の要件」をご説明しますが、実際の条文変更や労務トラブル防止の実務については、必ず顧問社労士等の専門家と相談して進めてください。
まとめ:1年以内の完了を目指して
現職者の確認は、単なる事務作業ではなく、「スタッフとの信頼関係」が試されるプロセスです。「疑っているわけではない、法律上のルールであり、こどもたちを守るために協力してほしい」というメッセージを、経営者自身の言葉で伝えることがスムーズな運用の第一歩です。
次回は、これからの採用活動が劇的に変わる「新規採用時の確認フロー」について解説します。
「内定を出してから確認する?」「確認が終わるまで研修はどうする?」といった、採用現場の疑問にお答えします。

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