【不都合な真実#01】日本版DBSは「魔法の杖」ではない。性犯罪事実確認で防げない“氷山の一角”

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2026年12月25日の施行に向け、こどもに関わる事業者の間で急速に関心が高まっている「日本版DBS(こども性暴力防止法)」。 国が認めた仕組みを使って性犯罪歴を確認できるこの制度は、確かに画期的な一歩となり得るでしょう。

しかし、現場の経営者や施設長の方々と話していると、「DBSさえ導入すれば、性被害は防げる」という過度な期待(あるいは誤解) が広がっていることに、私はすこし危機感を覚えます。

今回は、専門家の視点から日本版DBSの「限界」と、制度の裏にある「真実」を解説します。

目次

「犯歴なし」=「潔白」ではない? システムの限界を知る

まず、日本版DBSの仕組みを見直していきましょう。

この制度は、こども家庭庁を通じて法務省が保有する犯歴データに照会をかけ、当該事業者の従業員が「特定性犯罪前科」を持っていないかどうかを確認するものです。

「特定性犯罪」の説明については👇

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仮に、「前科なし」という結果であっても、それはあくまで「特定の条件に当てはまる前科の記録が公的に存在しない」という意味に過ぎません。「性的な問題行動を起こしたことが一切ない」という証明にはならないのです。

恐ろしいのは「すり抜け」よりも「安全神話」

日本版DBSの導入によって、最も警戒すべきは、制度の不備そのものではなく、制度を導入したことによる組織の「思考停止」だと私は考えています。

「うちは全員DBSチェックを通しているから安心だ」
「国の認定を受けている安全な施設だ」

こうした「安全神話」が組織に蔓延すると、日々の監視の目が緩むことがあり得ます。
例えば、男性スタッフが女子児童と二人きりで教室に残っていても、「あの先生は前科がないことを確認できているのだから大丈夫だろう」というバイアスがかかり、声をかけなくなる。これこそが、加害者にとって最も都合の良い環境なのです。

加害者の心理と「グルーミング」の恐怖

性犯罪を行う者の多くは、衝動的に襲いかかるわけではありません。
時間をかけてこどもや周囲の大人を信用させ、心理的に支配していく「性的グルーミング(手なずけ)」という行動をとることが知られています。

性的グルーミング(性的手なずけ)
こどもに徐々に近づき、警戒心を解いて自分を信用させることで、性暴力を振るいやすくするための加害者の行動のこと。

彼らは往々にして「熱心な指導者」「こども想いの優しい先生」として振る舞います。
DBSチェックをクリアした(=前科がない)人物が、こうしたグルーミング行動をとっている時、システムへの過信は発見を遅らせる最大の要因となり得ます。

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「不適切な行為」の早期発見こそが”この制度の本質”

では、事業者はどうすればいいのでしょうか?

答えは、施行ガイドラインや横断指針の中に明確に示されています。
それは、前科の有無を確認する「犯罪事実確認」は、あくまで安全確保措置の一部に過ぎないということです。

国が求めているのは、単なる犯歴照会ではありません。日頃から「性暴力につながりかねない芽」を摘み取るための環境づくり、すなわち「不適切な行為」への対策がこの制度の”肝”なのです。

「不適切な行為」とは何か?

施行ガイドラインでは、性暴力そのものではないものの、性暴力につながり得る行為として「不適切な行為」を定義し、事業者にその防止を求めています。

これらの行為は、必ずしも即座に「犯罪」となるわけではありません。
しかし、これらを放置することは、将来的な性暴力を招く「予兆」を見逃すことと同義です。

日本版DBSの認定を受けるためには、これらの「不適切な行為」を自社の規程で定義し、従事者に周知徹底し、早期に把握する体制を整えることが義務付けられています。

経営者が今すぐ着手すべき「安全確保措置」の全体像

認定事業者を目指すなら、あるいは義務対象者として法的責任を果たすなら、今すぐに着手すべきは以下の4つの柱です。

服務規律(ルール)の策定と周知

「何をしてはいけないか」を曖昧にしていませんか?

「こどもと二人きりにならない」
「私的なSNS交換は禁止」
「身体接触は原則禁止(必要な場合は許可制)」

など、具体的な行動基準を就業規則や服務規程に明記し、スタッフに周知することがスタートラインです。

物理的環境の改善(死角の解消)

あなたの教室や施設に、外から見えない「死角」はありませんか?

教室のドアに窓をつける、パーティションの高さを下げる、どうしても死角になる場所には防犯カメラを設置するなど、ハード面での対策は「魔が差す」瞬間を物理的に排除します。

教育・研修の実施(座学+演習)

スタッフに動画を見せるだけで終わらせていませんか?

施行ガイドラインでは、研修において「座学と演習(ロールプレイングやケーススタディ)を組み合わせること」が必須要件とされています。

「もし同僚が不適切な行為をしているのを見たらどうするか?」といった具体的な場面を想定させ、自分事として考えさせる研修が必要です。

相談・通報体制の整備

こどもや保護者、そしてスタッフ自身が「おかしい」と思った時に声を上げられる仕組みはありますか?

内部の相談窓口だけでなく、こども家庭庁や弁護士などの「外部窓口」を周知することも重要です。特にこどもに対しては、トイレや更衣室など、人目を気にせず見られる場所にカードを置くなどの工夫が求められます。

まとめ:DBSは「ゴール」ではなく「スタート」

日本版DBS導入は、こどもに関わるビジネスを行うすべての人にとって、安全管理のあり方を根本から見直す契機となるでしょう。

犯歴照会システム(DBS)は、あくまで過去に明確な汚点がある人物を入り口で弾くための「最低限のフィルター」に過ぎません

本当の意味でこどもを守り、そして万が一の事故から組織を守るためには、フィルターをすり抜けて入ってきた人物が、内部で加害行為を行えないような「強固な免疫システム(組織風土と監視体制)」を作ることこそが不可欠です。

認定マークを取得することは、保護者に対して「私たちは安全対策に本気です」と宣言することです。しかし、その中身が伴っていなければ、いざ事件が起きた時、その看板は逆にあなたを追い詰めることとなりかねません。


次回のテーマは、経営者にとってさらに頭の痛い問題、「日本の労働法」との戦いです。

「犯歴があることがわかったら、すぐに解雇できるのか?」

実は、日本の法律はそこまで単純ではありません。
下手に動けば、逆に「不当解雇」で訴えられるリスクすらあるのです。

次回、「『犯歴あり』でも即クビにはできない?日本の労働法が突きつける残酷な現実」で、その法的リスクと回避策を徹底解説します。

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